紅色娘子軍

紅色娘子軍（こうしょくじょうしぐん）

中華人民共和国を代表するバレエ作品の一つに、紅色娘子軍（こうしょくじょうしぐん）があります。これは単なる芸術作品に留まらず、特に文化大革命期においては、『様板戯（ようばんぎ）』、すなわち革命的模範劇として、数少ない上演を許された重要な演目の一つでした。共産主義の理想を描く『紅色経典』としても位置づけられています。

この作品の源流は、1930年代初頭に遡ります。物語は、1931年に中国共産党の傘下にあった海南島のゲリラ部隊、中国工農紅軍第2独立師団第3団女子特務連隊の実話に着想を得ています。舞台は中国南部に位置する海南島。当時の中国は国民党と共産党が対立する激動の時代でした。物語では、国民党と結びつき、農民から搾取する悪辣な地主に対して、虐げられた女性たちが立ち上がり、自らの革命武装組織「紅色娘子軍」を結成。地主の圧政を打ち破り、解放を勝ち取るまでの闘いが描かれます。

「紅色娘子軍」は、様々なメディアで展開されました。まず1961年には、著名な謝晋監督による劇映画が製作・公開され、多くの観客を動員しました。そして1964年には、北京の天橋劇場で舞台バレエ版が初演を迎えます。このバレエ版は特に高い評価を受け、その後1971年にはバレエ映画としても制作されました。さらに1972年には、中国の伝統演劇である京劇版の映画も公開され、多様な形式で作品が広められました。

物語の主人公は、海南島万泉河一帯の椰林寨（現在の瓊海市に位置します）に住む下女、呉瓊花（ご けいか）です。彼女は、国民党と結びついた地主、南覇天（なん はてん）から過酷な扱いを受け、ついに暴行されてしまいます。決死の思いでジャングルへ逃れた呉瓊花は、そこで共産党員の洪常青（こう じょうせい）と出会います。洪常青の指導を受け、呉瓊花は同志たちと共に女性だけのゲリラ部隊「紅色娘子軍」に参加します。当初、彼女は個人的な恨みから南覇天への報復に走り、拙速な作戦で部隊に損失を与えてしまいます。しかし、この失敗を通して、彼女は個人的な復讐心を超え、全ての農民を地主の圧迫から解放するという共産党の大義に目覚めていきます。娘子軍は組織として成長し、ついに南覇天を捕らえることに成功し、処刑します。その後、紅色娘子軍は中国共産党の主力部隊と合流し、南覇天に連なる地主勢力を一掃します。この功績により、主人公の呉瓊花は紅色娘子軍の連隊長へと昇進し、物語は革命の勝利と個人の成長を示して幕を閉じます。

「紅色娘子軍」のバレエ版は、同じく文革期の代表作であるバレエ『白毛女』と共に、中国におけるバレエの民族化、すなわち西洋由来のバレエに中国の主題や表現を取り入れた作品の代表例とされています。文化大革命期を象徴する芸術作品でありながら、その上演は一時的な流行に終わることなく、21世紀となった現代でもなお、多くの人々に親しまれ、国内外で上演が続けられています。特に、1972年にはバレエ『白毛女』と共に訪日公演が行われ、日本の観客にも強い印象を与えました。この作品は、後に西洋で制作されたオペラ「中国のニクソン」（1987年初演）の中でも言及されるなど、国際的な影響力も持っています。

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