紙舞

紙舞 ― 紙が舞い飛ぶ謎の妖怪

日本の妖怪「紙舞（かみまい）」は、何枚もの紙が自然に舞い飛ぶという不思議な現象を引き起こす存在として知られています。その正体や起源は謎に包まれており、古くから人々の関心を集めてきました。本稿では、複数の文献を参考に、紙舞に関する情報を詳細に検証していきます。

昭和初期の文献における記述

昭和初期の民俗学者である藤沢衛彦氏の著書『妖怪画談全集 日本篇 上』には、神無月（10月頃）に紙が一枚ずつ舞い飛ぶという記述があり、これが「紙舞」と呼ばれる妖怪の仕業であるとされています。この記述は、山室静氏と山田野理夫氏による『妖怪魔神精霊の世界』でも引用されています。

しかし、妖怪研究家である村上健司氏によると、『妖怪画談全集』で紙舞の説明に使われている挿絵は、江戸時代の怪談集『稲生物怪録』に由来するとのことです。『稲生物怪録』では、主人公の稲生平太郎が体験した怪異の一つとして、鼻紙が自然に舞う様子が描かれています。このことから、紙舞は『稲生物怪録』に描かれた特定の妖怪ではなく、単なる怪異の一例である可能性が指摘されています。さらに、『妖怪画談全集』では紙舞の出現時期を神無月としていますが、『稲生物怪録絵巻』では7月とされており、時期にも食い違いが見られます。

その他の伝承と創作の可能性

『妖怪魔神精霊の世界』では、天保時代に強欲な金貸しが証文を扱う際に、証文が一枚ずつ空中に飛び去ったという伝承も紙舞として紹介されています。これは山田野理夫氏の著書『おばけ文庫』にある物語が元になっていますが、村上健司氏はこの物語も創作であると指摘しています。さらに山田氏の著書には、京都で小説家の原稿が舞い上がったという紙舞の話も収録されていますが、これらの物語の信憑性については疑問が残ります。

紙舞の正体を探る

以上の情報から、紙舞の正体については明確な結論を出すことができません。既存の文献には、複数の異なる記述があり、創作の可能性も示唆されています。紙舞が本当に妖怪なのか、自然現象なのか、あるいは人間の作り話なのか、さらなる調査と研究が必要と言えるでしょう。紙舞という存在は、妖怪研究において興味深い謎であり、今後も様々な角度からの検証が求められます。もしかしたら、紙舞は時代や地域によって異なる解釈がなされてきた、曖昧な存在なのかもしれません。

今後の研究課題

紙舞に関する今後の研究としては、以下の点が挙げられます。

『稲生物怪録』における鼻紙が舞う場面の詳細な分析
『妖怪魔神精霊の世界』や『おばけ文庫』に記載された紙舞の伝承の検証
* 紙舞に関する地方伝説や口承伝承の収集

これらの研究を通して、紙舞の謎を解き明かし、その実態に迫ることが期待されます。紙舞は、日本の妖怪文化を理解する上で重要な要素であり、その謎解きは、私たちに新たな知見をもたらしてくれるでしょう。

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