細山長司

細山長司

細山長司（ほそやまちょうじ、1949年4月24日 - 2017年7月5日）は、日本の渓流釣り界において、その類まれな技術と哲学によって大きな影響を与えた人物である。東京都清瀬市に生まれ、OWNER社のフィールドテスターを務めた。特に、川の本流域で延べ竿一本を用いてサケ科魚類を狙う「本流釣り」という新たな分野を確立し、その呼称を定着させた第一人者として、釣り愛好家の間で広く知られている。

本流釣りの確立と探求

細山氏が本流釣りへと傾倒する契機となったのは、奥多摩の地で出会った一尾の見事な尺ヤマメであった。この経験から、より大型のヤマメが潜む可能性を秘めた本流域へと目を向け、新たな釣りのスタイルを模索し始める。しかし、彼が本流域での釣りに着手した頃、本流釣りという概念はまだ確立されておらず、本流域の広さや強い流れ、そして大型魚とのやり取りに適した専用の竿は存在しなかった。そこで細山氏は、渓流竿よりも長いアユ竿を本流竿として転用することを試みる。だが、アユ竿は本流の負荷に耐えきれず、幾度となく破損するという困難に直面した。こうした試行錯誤と長年の経験の蓄積こそが、本流釣りの技術と理論を確立させ、後には各釣具メーカーから本流域専用の竿が開発・販売される流れを生み出した。現在では本流竿というカテゴリーが確立されており、シマノから発売されている「SUPERGAME刀」シリーズは、細山氏がその開発・監修に携わった代表的なモデルの一つである。

延べ竿へのこだわりと伝説

細山氏の釣りにおける最も特筆すべき哲学は、リールを使用せず、ただ一本の延べ竿でいかなる大物にも立ち向かうという揺るぎない信念であった。この伝統的かつストイックなスタイルは国内外で注目を集めた。2006年にはアラスカへと渡り、巨大なキングサーモンに延べ竿一本で挑んだ。その武士のような釣り姿は現地の釣り人たちに強い感銘を与え、「侍釣り士」と称賛された。

彼の生涯における最も伝説的な釣果として語り継がれるのが、サクラマスの延べ竿記録である。2000年4月18日、山形県の赤川において、体長73.5センチメートル（尾叉長）という驚異的なサイズのサクラマスを延べ竿で見事に釣り上げた。この記録は、当時の釣り界や漁業関係者に計り知れない衝撃を与え、地元紙である山形新聞でも写真付きで大きく報道された。この記録は2009年時点においてもなお破られておらず、延べ竿による大物釣りの金字塔として輝いている。

多様な釣りへの造詣と貢献

細山氏は、本流釣りや大物狙いだけでなく、幅広い釣りの分野でその卓越した腕前を発揮した。特にワカサギ釣りにおいても名手として知られ、数々の湖沼で驚異的な釣果を記録し、その技術力の高さを証明している。

また、釣りの技術や普及活動に加え、自然環境の保護にも熱心であった。多摩川においては、ヤマメの資源保護を目的として数万匹にも及ぶヤマメの稚魚放流を継続的に行い、河川環境の保全に貢献した。

メディアでの活躍

生前、細山長司氏はそのカリスマ性と高度な技術、そして釣りへの情熱を多くのメディアで披露した。主な出演番組は以下の通りである。

釣り・ロマンを求めて（テレビ東京系列）
地球!夢の楽園紀行〜fishing traveler〜（BS-TBS）
いつでも釣り気分!（BS-TBS/SHIMANO TV）
夢釣行〜一魚一会の旅〜（BS日テレ）
釣り百景（BS-TBS）

さらに、彼の本流サクラマス釣りにかける情熱と挑戦を追った映像作品も制作された。

細山長司の限界への挑戦 本流サクラマス釣り（VHS、つり人社）

細山長司は、延べ竿一本で大物を追い求め、本流釣りという新たな世界を切り拓いた孤高の釣り師として、日本の釣り史にその名を深く刻んでいる。

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