ワカサギ

ワカサギ（公魚）とは

ワカサギ（学名: Hypomesus nipponensis）は、キュウリウオ目キュウリウオ科に分類される魚の一種です。体長は最大で17cmほどで、冷水を好む硬骨魚として知られています。北太平洋沿岸に広く分布しており、食用魚としても重要な存在です。日本においては、その適応能力の高さから、湖沼や人工湖への移植が進み、現在では100近い湖沼で生息が確認されています。

名称

ワカサギには、アマサギ（山陰地方）、オオワカ、コワカ、サイカチ、サギ、シラサギ、シロイオ、メソグリ、サクラウオなど、多くの別名があります。

和名である「公魚」の由来は、江戸時代に常陸国麻生藩が霞ヶ浦で獲れたワカサギを年貢として徳川将軍家に献上したことが起源とされています。この出来事から、ワカサギは公儀御用魚とされ、「公魚」という名前が定着しました。中国語では「西太公魚」と表記されます。

分布

ワカサギの天然分布域は、太平洋側では千葉県または茨城県以北、日本海側では島根県以北の北日本、北海道に広がっています。国外では、ロシアのハバロフスク地方やサハリンの河川、ベーリング海に注ぐアナジリ川などにも生息しています。生息環境は内湾、汽水域、河川、湖など多岐にわたります。

人為的な放流

ワカサギは、水質や水温、塩分に対する高い適応力と、食用魚としての需要の高さから、日本各地の湖沼やダム湖に放流され、定着しています。1910年代には、水産動物学者の雨宮育作によって霞ヶ浦のワカサギが山中[[湖]]、諏訪湖、芦ノ湖へ移植され、そこからさらに各地の湖沼へと広がっていきました。現在では南西諸島と伊豆・小笠原諸島を除く全国に分布しており、鹿児島県が南限とされています。アメリカ合衆国では、カリフォルニア州に移入されたことが確認されており、在来の近縁種との競合が懸念されています。

形態

ワカサギの成魚は全長15cmほどで、細長い体型をしています。各ひれは小さく、背びれの後ろには小さなあぶらびれがあります。背びれの位置は腹びれよりも少し後方にあるため、近縁種のチカと区別する際のポイントとなります。また、あぶらびれが大きいイシカリワカサギという近縁種も存在します。体色は、背面が淡青色、腹面が銀白色で、側面には淡黒色の縦帯があります。

生態

ワカサギには、成長期に海に下る遡河回遊型（両側回遊型）と、生涯を淡水で過ごす河川残留型（陸封型）が存在します。同一水域内でも両方の型が共存することが確認されています。遡河回遊型は、孵化後に海に下り、汽水域で一定期間過ごします。産卵のために河川を遡上する際は、淡水への順応を行わず、一気に遡上し、産卵を終えると再び海へと戻ります。産卵期は地域によって異なりますが、冬から春にかけて、大群をなして河川を遡り、水草や枯れ木などに付着性の卵を産み付けます。卵の直径は1mm程度で、1匹のメスが1000粒から2万粒の卵を産みます。ワカサギの寿命は通常1年ですが、北海道や野尻湖などの寒冷地では2年魚、3年魚も見られます。

食性は肉食性で、ケンミジンコやヨコエビなどの動物プランクトン、魚卵、稚魚などを捕食します。一方で、大型の魚類や水辺の鳥類などの天敵も存在します。富栄養化など水質汚濁に対する適応力が非常に高く、そのような環境の湖沼でも普通に見られます。「ワカサギが棲める湖」といった表現が水質の良さを表すために使われることがありますが、実際には「ワカサギしか棲めない」状態である場合も少なくありません。

利用

漁業

ワカサギは、琵琶湖、小[[川原湖]]、山中[[湖]]、霞ヶ浦、北浦、宍道[[湖]]、諏訪湖など、各地の湖沼で漁獲され、市場に流通しています。また、他の水域に放流するための採卵用の親魚の捕獲も行われています。琵琶湖では11月下旬から1月下旬にかけて漁が行われ、時期や場所によって沖びき網など複数の漁法が用いられます。

宍道[[湖]]では、1994年を境に漁獲量が大きく減少しており、夏期の高水温やネオニコチノイド系農薬が原因と考えられています。

遊漁

ワカサギ釣りは、冬の風物詩として人気があります。氷上穴釣り、ドーム船釣り、ボート釣り、岸釣りなど、さまざまなスタイルで楽しむことができます。仕掛けは胴突きのサビキが主流で、餌にはサシや赤虫がよく使われます。琵琶湖では、12月から3月の夜間に産卵のために接岸するワカサギを、タモ網や投網で捕獲することができます。

氷上穴釣り

氷上穴釣りは、結氷した湖面にアイスドリルやツルハシなどで穴をあけ、そこからワカサギを釣り上げる方法です。昭和初期から、長野県や山梨県の湖で楽しまれていました。

ドーム船

ドーム船は、ストーブを備えた船内で、船底に開いた穴からワカサギを釣る方法です。長野県の野尻湖や諏訪湖、山梨県の山中[[湖]]や河口[[湖]]などで人気があります。

事故

ドーム船や氷上のテント内では、一酸化炭素中毒による酸欠事故が発生しています。山中[[湖]]では、石油ファンヒーターの使用禁止を呼びかけています。

料理

ワカサギは、小ぶりなものは骨まで柔らかく丸ごと食べることができます。鮮度が落ちやすい魚で、味が繊細なため、薄味での調理が推奨されます。焼き魚、吸い物、煮付け、鱠、天ぷら、フライ、から揚げ、マリネ、南蛮漬け、素揚げ、佃煮、甘露煮など、さまざまな調理法で楽しめます。新鮮なものは刺身でも美味しくいただけます。イギリスでは、ワカサギの唐揚げがWhitebait（またはBlanchbait）という名称で親しまれています。

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