細胞内液

細胞内液（さいぼうないえき、英: intracellular fluid）は、多細胞生物の細胞の内部空間を満たす液体の総称です。体液の主要な構成要素の一つであり、細胞が生命活動を営む上で不可欠な内部環境を提供しています。

動物種により異なりますが、細胞内液は成体の体重の約30パーセントから40パーセント程度を占め、体液全体の約3分の2に相当します。これは、体内にある膨大な数の細胞それぞれが内部に液体を保持していることを示しています。細胞の種類によって、細胞内液の量や特性には違いが見られます。

細胞内液の主成分は水であり、その中に様々な溶質が溶け込んでいます。無機塩類（電解質）、タンパク質（特に酵素）、アミノ酸、糖、ヌクレオチド（ATPなど）といった物質が豊富に含まれ、細胞内外で異なる独特のイオンバランスを維持しています。この複雑な組成は、細胞内で行われるほぼ全ての生化学反応の媒体となり、エネルギー代謝、遺伝子発現、タンパク質合成といった生命現象を可能にしています。また、細胞の形態維持や容積調節にも深く関わっています。

細胞内液は、細胞膜という選択透過性の境界によって細胞外液から隔てられています。細胞膜に存在する多様な輸送タンパク質（イオンチャネルやポンプなど）の働きにより、必要な物質が細胞外から取り込まれたり、不要な物質が排出されたり、イオンバランスが調節されたりします。このように、細胞膜は細胞内環境を厳密に制御する役割を担っています。しかし、細胞内液の組成は固定されたものではありません。細胞が置かれる環境の変化や、細胞自身の活動レベルの変動（例：エネルギー消費の増減、神経伝達など）に応じて、細胞内液の水分量や溶質濃度はダイナミックに変化します。細胞は、細胞膜を通じた物質輸送を調節することで、こうした変化に対応し、細胞機能が円滑に行われるよう内部環境を最適化しようと努めています。

細胞内液の安定性は、細胞外液との相互作用に依存しています。細胞膜を介した物質交換は、両方の液体の組成に影響を与え合い、特に浸透圧の平衡維持は細胞の生存にとって極めて重要です。細胞内外の浸透圧バランスが崩れると、細胞が過剰に膨張したり収縮したりして、正常な機能が損なわれる可能性があります。したがって、細胞内液は細胞単独の内部環境であるだけでなく、細胞外液と共に生体の恒常性維持システムの一部を形成しています。

細胞内液は、細胞の生命活動を支える動的な内部環境であり、その組成は細胞膜による厳密な調節と、細胞内外の相互作用によって維持されています。その適切な維持は、個々の細胞の機能はもとより、生体全体のホメオスタシスにとって極めて重要です。

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