細胞口

細胞口 (Cytostome)

細胞口（さいぼうこう、英語: cytostome）とは、一部の単細胞真核生物、特に繊毛虫類や特定の鞭毛虫類に見られる、細胞が外部から栄養を取り込むための特別な構造です。これは細胞膜に形成された開口部であり、食物粒子を細胞内へ効率的に運び込む役割を果たします。原生動物がエネルギーを獲得し、生命活動を維持するために不可欠な摂食器官の一つと言えます。

位置と構造

細胞口は一般的に、細胞の体の前方に位置しています。その具体的な形態は、生物の種類によって様々です。最も単純な形態では、細胞口は体表面に直接開いた開口部として存在します。一方、多くの種類では、細胞口は体表面から細胞内部へ向かって陥没した、管状あるいは嚢状の構造の奥深くに開いています。この陥没した部分は「細胞咽頭（cytopharynx）」などと呼ばれることもあり、摂食プロセスにおいて重要な役割を担います。細胞口やそれに続く構造の形状は、それぞれの生物の摂食戦略や取り込む食物の種類に適応して進化してきました。

摂食機能とメカニズム

細胞口の主要な機能は、外部環境から食物粒子を取り込むことです。細胞口に到達した食物粒子は、細胞膜が内部へ陥入することによって包み込まれ、細胞質内に「食胞（food vacuole）」として取り込まれます。この食胞は、細胞膜に由来する小胞であり、食物粒子を内包したまま細胞質中を移動します。

特に繊毛虫類では、細胞口周辺に発達した繊毛が摂食を補助する重要な役割を果たします。単純な種では、細胞口の周囲に通常の体表を覆う繊毛が並んでいるだけの場合もあります。しかし、より複雑な摂食様式を持つ多くの繊毛虫では、細胞口周辺の繊毛が特殊化し、集合して「口部繊毛（oral cilia）」と呼ばれる構造を形成します。これらの繊毛は協調して拍動することで、周囲の水を細胞口の方向へ向かって流し、そこに浮遊する細菌や微粒子などの食物を効率的に集めます。特定の種では、これらの特殊化した繊毛がさらに発達し、「繊毛帯（adoral zone of membranelles）」のような、食物粒子を細胞口へ誘導・集中させるための高度な構造を形成します。これらの構造は、単に食物を集めるだけでなく、粒子を選別する機能を持つこともあります。

鞭毛虫類の一部（エクスカバータやストラメノパイルなど）にも細胞口は存在しますが、繊毛虫のような発達した口部繊毛構造は一般的に見られません。多くの場合、鞭毛の動きや体表面の変形を利用して食物粒子を細胞口へ運び込みます。

食胞内での消化

細胞口から食胞として取り込まれた食物粒子は、細胞質内で消化されます。食胞は細胞内のリソソームと融合し、リソソームに含まれる消化酵素が食胞内部に放出されます。これらの酵素によって、食物粒子に含まれるタンパク質、炭水化物、脂質などが分解されます。消化によって生じた栄養分子は、食胞膜を介して細胞質中へ吸収され、細胞の代謝に利用されます。

消化されずに残った物質（消化残渣）を含む食胞は、やがて細胞表面の特定の部位（細胞肛門または細胞排出孔と呼ばれる）に移動し、そこで細胞外へ排出されます。

見られる生物群

細胞口は、全ての原生動物に見られるわけではありません。主に摂食様式が従属栄養性（他の生物から栄養を得る）であり、特定の固形物や粒子を摂取する生物群に発達しています。代表的なものとしては、多くの種類の繊毛虫（Paramecium、Tetrahymenaなど）や、エクスカバータ（Euglenaの一部など）、ストラメノパイル（一部の従属栄養性の群）といった特定の系統群に属する鞭毛虫類が挙げられます。

細胞口は、これらの単細胞生物が多様な環境で効率的に栄養を獲得し、生存するための重要な適応の一つです。その構造や機能の多様性は、原生動物の進化における様々な摂食戦略を反映しています。

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