エクスカバータ
エクスカバータ（学名: Excavata）とは、真核生物の系統進化を理解する上で、かつて大きな意義を持つと考えられ、一つの主要な系統群として提唱された名称です。その存在は1999年に研究者によって初めて示唆され、2002年に正式な分類群として提案されました。このグループは、独立して生活する自由生活性のものから、他の生物と共生するもの、さらには病原性を持つ寄生性のものまで、非常に多様な生態を持つ生物を含んでいました。例えば、ヒトに感染するランブル鞭毛虫（ジアルジア）やトリコモナス類などが、かつてエクスカバータの一部とされていました。
エクスカバータに含まれるとされた生物の大部分は、単細胞の生物で、主に鞭毛を使って水中などを移動します。多くの種は、他の生物を捕食したり、有機物を取り込んだりする従属栄養性ですが、ユーグレノゾアの一部、特にユーグレナ藻の仲間のように、葉緑体を持って光合成を行う独立栄養性のものも存在します。
形態的な特徴として、多くのエクスカバータは通常2本、4本、あるいはそれ以上の多数の鞭毛を持っています。また、細胞口の前面が微小管によって裏打ちされた、他の真核生物には見られない独特の微細構造を持つことが知られています。ただし、これらの特徴は進化の過程で二次的に失われた種も存在します。細胞の形態は多様で、ほとんどが単細胞ですが、アクラシス科のように生活環の一時期に一時的な多細胞体を形成する例もあります。
エクスカバータの一部には、酸素を消費してエネルギーを生成する典型的なミトコンドリアを欠いている種が多く見られます。これらは「無ミトコンドリア生物」と呼ばれることがありますが、実際には多くの種が、ミトコンドリアに由来するハイドロジェノソームやマイトソームといった特殊な細胞小器官を持っています。一方、ミトコンドリアを持つ種では、その内部構造であるクリステの形状が、他の真核生物で一般的な管状とは異なり、チューブ状、盤状（ディスコバの一部に見られる）、あるいは層状であることが観察されます。
また、エクスカバータにはメタモナダのように嫌気的な環境で生活するグループが含まれます。嫌気性真核生物の細胞膜に関する知見は、好気性のものに比べてまだ限られています。好気性の真核生物の細胞膜には、流動性の調節などに不可欠なステロールという脂質が普遍的に存在しますが、ステロールの合成には酸素が必要なため、嫌気性の真核生物は自身でこれを合成できません。一部の嫌気性エクスカバータは、合成に酸素を必要としないテトラヒマノールなどのトリテルペノイド類を代替物質として利用することが分かっています。しかし、中にはこうした代替物質すら見つかっていない種も存在しており、これらの生物がどのように細胞膜機能を維持・調節しているのかは、現在の科学でも完全には解明されていません。
かつて、エクスカバータは形態的な単純さやミトコンドリアを欠く種の存在から、真核生物の中で最も原始的なグループの一つと考えられ、他の全ての真核生物に対して側系統的な（派生的なグループの祖先を含まない）位置にあると推測されることもありました。しかし、これは無ミトコンドリア生物の系統解析でしばしば問題となる、進化速度が速い系統が系統樹上で本来より根元側に位置するように見えてしまう「長枝誘引」という現象による見かけ上の結果である可能性が指摘されています。実際に、エクスカバータとされる生物群が系統樹上でより後生的な位置に現れる系統解析の結果も得られています。真核生物全体の系統樹におけるエクスカバータの位置については、依然として議論の余地があり、例えばアンキロモナス類がマラウィモナス類に近縁である可能性なども示唆されていますが、確定には至っていません。
上述のように、その後の分子系統解析などによってエクスカバータの単系統性が否定されたため、2021年現在、エクスカバータはもはや正式な分類群としては扱われていません。かつてエクスカバータに含まれるとされた生物群は、主に以下の三つの独立した系統群に解体されています。
メタモナダ (Metamonada)
ディスコバ (Discoba)
* マラウィモナス類 (Malawimonas)
かつての分類体系（例えばAdl et al., 2012など）では、これらのグループがエクスカバータの下位分類として位置づけられていました。例えば、メタモナダにはジアルジアを含むフォルニカータや、トリコモナスを含むパラバサリアなどが含まれ、ディスコバにはユーグレナを含むユーグレノゾアや、ネグレリアを含むヘテロロボサなどが含まれていました。
エクスカバータという概念は、真核生物の初期進化や多様化のプロセスを考察する上で重要な示唆を与えましたが、現在の知見に基づけば、かつてこの名称で括られた生物群は、単一の祖先から派生したグループではなく、複数の独立した系統を含む集合体であったと考えられています。
出典・参考文献
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特徴
エクスカバータに含まれるとされた生物の大部分は、単細胞の生物で、主に鞭毛を使って水中などを移動します。多くの種は、他の生物を捕食したり、有機物を取り込んだりする従属栄養性ですが、ユーグレノゾアの一部、特にユーグレナ藻の仲間のように、葉緑体を持って光合成を行う独立栄養性のものも存在します。
形態的な特徴として、多くのエクスカバータは通常2本、4本、あるいはそれ以上の多数の鞭毛を持っています。また、細胞口の前面が微小管によって裏打ちされた、他の真核生物には見られない独特の微細構造を持つことが知られています。ただし、これらの特徴は進化の過程で二次的に失われた種も存在します。細胞の形態は多様で、ほとんどが単細胞ですが、アクラシス科のように生活環の一時期に一時的な多細胞体を形成する例もあります。
ミトコンドリアと細胞膜
エクスカバータの一部には、酸素を消費してエネルギーを生成する典型的なミトコンドリアを欠いている種が多く見られます。これらは「無ミトコンドリア生物」と呼ばれることがありますが、実際には多くの種が、ミトコンドリアに由来するハイドロジェノソームやマイトソームといった特殊な細胞小器官を持っています。一方、ミトコンドリアを持つ種では、その内部構造であるクリステの形状が、他の真核生物で一般的な管状とは異なり、チューブ状、盤状（ディスコバの一部に見られる）、あるいは層状であることが観察されます。
また、エクスカバータにはメタモナダのように嫌気的な環境で生活するグループが含まれます。嫌気性真核生物の細胞膜に関する知見は、好気性のものに比べてまだ限られています。好気性の真核生物の細胞膜には、流動性の調節などに不可欠なステロールという脂質が普遍的に存在しますが、ステロールの合成には酸素が必要なため、嫌気性の真核生物は自身でこれを合成できません。一部の嫌気性エクスカバータは、合成に酸素を必要としないテトラヒマノールなどのトリテルペノイド類を代替物質として利用することが分かっています。しかし、中にはこうした代替物質すら見つかっていない種も存在しており、これらの生物がどのように細胞膜機能を維持・調節しているのかは、現在の科学でも完全には解明されていません。
真核生物内での位置付け
かつて、エクスカバータは形態的な単純さやミトコンドリアを欠く種の存在から、真核生物の中で最も原始的なグループの一つと考えられ、他の全ての真核生物に対して側系統的な（派生的なグループの祖先を含まない）位置にあると推測されることもありました。しかし、これは無ミトコンドリア生物の系統解析でしばしば問題となる、進化速度が速い系統が系統樹上で本来より根元側に位置するように見えてしまう「長枝誘引」という現象による見かけ上の結果である可能性が指摘されています。実際に、エクスカバータとされる生物群が系統樹上でより後生的な位置に現れる系統解析の結果も得られています。真核生物全体の系統樹におけるエクスカバータの位置については、依然として議論の余地があり、例えばアンキロモナス類がマラウィモナス類に近縁である可能性なども示唆されていますが、確定には至っていません。
現在の分類
上述のように、その後の分子系統解析などによってエクスカバータの単系統性が否定されたため、2021年現在、エクスカバータはもはや正式な分類群としては扱われていません。かつてエクスカバータに含まれるとされた生物群は、主に以下の三つの独立した系統群に解体されています。
メタモナダ (Metamonada)
ディスコバ (Discoba)
* マラウィモナス類 (Malawimonas)
かつての分類体系（例えばAdl et al., 2012など）では、これらのグループがエクスカバータの下位分類として位置づけられていました。例えば、メタモナダにはジアルジアを含むフォルニカータや、トリコモナスを含むパラバサリアなどが含まれ、ディスコバにはユーグレナを含むユーグレノゾアや、ネグレリアを含むヘテロロボサなどが含まれていました。
エクスカバータという概念は、真核生物の初期進化や多様化のプロセスを考察する上で重要な示唆を与えましたが、現在の知見に基づけば、かつてこの名称で括られた生物群は、単一の祖先から派生したグループではなく、複数の独立した系統を含む集合体であったと考えられています。
出典・参考文献
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