細胞融合

細胞融合

細胞融合とは、二つ以上の細胞が一体化し、一つの雑種細胞を形成する現象です。この現象は、同種の細胞間だけでなく、異なる種類の細胞間でも起こり得ます。細胞融合は、生物の成長、組織の修復、免疫反応など、生命現象の根幹に関わる重要なプロセスです。

細胞融合のメカニズム

細胞融合は、細胞膜同士が接触し、融合することで起こります。この過程は、細胞膜の流動性、特定のタンパク質の働き、そして外部からの刺激によって制御されています。具体的には、以下の要因が細胞融合を促進します。

細胞膜の流動性: 細胞膜は脂質二重層で構成されており、その流動性によって細胞膜同士が接近しやすくなります。
融合タンパク質: 細胞膜には、細胞融合を促進する特定のタンパク質が存在します。これらのタンパク質は、細胞膜の構造を変化させ、融合を誘導します。
外部刺激: センダイウイルスなどのウイルス感染や、ポリエチレングリコール (PEG) などの化学物質、電気刺激などが、細胞融合を引き起こす可能性があります。

生物学的な意義

細胞融合は、生物の成長や維持において重要な役割を果たしています。例えば、筋肉細胞の形成、骨細胞の形成、胎盤の形成などに関与しています。また、免疫細胞であるマクロファージは、複数の細胞が融合することで巨大化し、異物を効率的に排除します。

人工的な細胞融合とその応用

細胞融合は、人工的に誘導することも可能です。1957年に岡田善雄博士がセンダイウイルスを用いて細胞融合を誘導する方法を発見して以来、様々な手法が開発されてきました。現在では、PEG法や電気刺激法などが広く用いられています。人工的な細胞融合は、以下のような分野で応用されています。

ハイブリドーマ技術: 抗体産生細胞と骨髄腫細胞を融合させ、モノクローナル抗体を大量に生産する技術です。
品種改良: 植物細胞のプロトプラスト同士を融合させ、新しい品種を作り出す技術です。
再生医療: 損傷した組織や臓器の修復を目的として、細胞融合を利用する研究が進められています。

糖尿病治療への応用

近年、細胞融合は糖尿病治療への応用も期待されています。京都大学の研究グループは、骨髄由来の幹細胞と膵島細胞を融合させ、インスリン分泌能力を高めた細胞をラットに移植する実験に成功しました。この研究成果は、細胞融合が糖尿病治療の新たな選択肢となる可能性を示唆しています。

課題と展望

細胞融合は、様々な可能性を秘めた技術ですが、まだ課題も多く残されています。例えば、細胞融合の効率向上、融合細胞の安定性の確保、倫理的な問題などが挙げられます。今後の研究によってこれらの課題が克服されれば、細胞融合は医療、農業、産業など、幅広い分野で革新的な技術となることが期待されます。

関連項目

分化
脂質二重層
細胞分裂
ハイブリドーマ
ポマト
細胞外マトリックス

参考文献

H. Harris: Cell fusion, 1970, Harvard University Press, Mass.
R. Borgens et al.: Cell Fusion and some subcellular Properties of heterokaryons and hybrids, Journal of Cell Biology, VOLUME 67, 1975, pages 257-280

脚注

細胞融合

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