統合戦術無線システム

統合戦術無線システム（JTRS）

統合戦術無線システム（Joint Tactical Radio System, JTRS）は、アメリカ軍によって開発された次世代の無線通信システムです。このシステムは、ソフトウェア無線として設計され、音声通話とデータ通信を統合的に担当することを目的としています。アメリカ全軍で広く使用されることを想定し、さまざまな用途に対応するために複数の機種が開発されましたが、その多くは計画の途中でキャンセルされ、実用化されたのは一部のモデルのみでした。

開発の背景と概要

JTRSは、アメリカ軍の全階梯にわたる通信ニーズに応えるために設計されたシステムで、陸軍の歩兵向けの無線機から航空機向けの戦術データ・リンクまで、多岐にわたる通信機器のオープンアーキテクチャ化を実現し、相互運用性を高めることを目指しました。しかし、この計画は非常に野心的であり、コストが膨らんだ結果、計画の見直しやキャンセルが繰り返されました。最終的には、国防総省にとって最大の失敗の一つと見なされ、15年もかけて投入された60億ドルの予算に対して実用化された無線機は2種に留まりました。

JTRSの分類と実用化

JTRSは主に5つの系列に分けられ、その中でもJTRS-HMSとMIDS-Jが実用化されました。

1. JTRS-GMR (Ground Mobile Radio) これは地上部隊用の無線機で、複数の回線を通じた音声通話やデータ、映像の秘密通信が可能です。当初は広範な用途を念頭に置いて開発されましたが、最終的に地上戦闘部隊に特化した仕様へと変更され、2011年に開発がキャンセルされました。

2. JTRS-HMS (Handheld, Manpack, Small Form Fit) これは歩兵が使用するための無線機で、背負い式、手持ち式、装着式の3つの形態があります。全てのモデルが秘匿通話とデータの伝送を可能としており、2015年から2016年にかけて全規模の量産が評価されることになっています。

3. JTRS-AMF (Airborne, Maritime, Fixed Station) おもに航空機、艦艇、地上基地向けに開発されましたが、いくつかの段階を経て最終的に統合された開発計画です。この系列も一部がキャンセルされ、その運用は限られています。

4. JEM (JTRS Enhanced MBITR) 既存のAN/PRC-148を改修し、特殊部隊のニーズに応えるために開発が進められましたが、完全な互換性を欠いていたために、最終的にJTRS-HMSに代替されることになりました。

5. MIDS-J (MIDS-JTRS) これは多機能の情報伝達システムとJTRSの技術を組み合わせたもので、航空機や艦艇での運用が可能です。

回線と通信能力

JTRSはいくつかの回線方式を使用でき、多様な通信を支援しています。例えば、Soldier Radio Waveform (SRW)やSINCGARS、HAVE QUICKのような戦術無線システムや、UHF-SATCOM、Mobile User Objective System (MUOS)といった通信プロトコルがあります。これにより、情報伝達の効率を高めるための様々な手段を提供しています。

結論

統合戦術無線システムは、アメリカ軍の通信システムの進化の一環として位置付けられていますが、その開発過程には多くの課題と試練がありました。全ての計画が成功に至ったわけではありませんが、実用化された無線機は、将来的な通信の基盤となる可能性を秘めています。

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