絶対矛盾的自己同一

絶対矛盾的自己同一

「絶対矛盾的自己同一」は、西田幾多郎によって1939年に発表された論文のタイトルであり、西田の哲学思想の重要な部分を占めています。この概念は、後期西田哲学の中心的な命題として特徴づけられており、自己と他者、全体と個物の関係を深く掘り下げています。

概要

西田は、この論文を通じて、自己同一性がどのように矛盾を抱えつつ維持されるのか、またその内部にどのようなダイナミズムが存在するのかを探求しました。彼は、自己が他者の人格を認めることで自己の同一性を保つ一方で、他者も同様に自己を認識することにより、相互に依存し合う関係を示します。このように、自己同一性は常に相互作用の中で形成されるものであり、単に固定的な存在ではありません。

西田の思考は、ヘーゲルの弁証法に影響を受けてはいますが、その方向性は異なります。彼は、対立が解消された後の新たな秩序を求めるのではなく、対立が維持された状態での自己同一を探求します。この立場は、時間や場所においても自己の同一性が矛盾的に存在することを示唆しています。

種々の矛盾

西田の「絶対矛盾的自己同一」は、主観的個物と客観的個物、全体とその部分、時間と空間など、さまざまな対概念における相互補完的な関係をも強調します。これを通じて、より大きな理解が導かれることを意図しています。例えば、歴史的世界は単なる過去の延長ではなく、現在の一瞬が未来を形作るダイナミズムを持つと考えられます。過去と未来は相互に影響し合い、一つの連続した流れとして理解されるべきです。

行為的直観を中心に、西田は芸術と自己の形成に関する考察を行います。ポイエシスとしての行為は、新たな創造を形作る過程で自己を深めていくものであり、単に作品を生み出すだけでなく、それ自体が自己の成長に寄与します。この視点は、個物が自己を言葉や行為を通じて表現することを強調し、創造性とは単なる外的な行為に留まらず、内的な深化とも関係していることを示しています。

社会と個人の関係

また、この概念は個人と社会の関係にも適用されます。個人は社会の中で存在し、同時に社会の変化を促す要因でもあります。西田は、個物が全体を形成し、全体が個物を規定するという循環的な関係性を描写し、絶対矛盾的自己同一性が新たな創造的可能性を孕んでいることを指摘します。これは、個人の存在が民族や社会の中でどのように機能しているのかという問いにつながります。

結論

「絶対矛盾的自己同一」は、自己の存在が他者や全体との関係性の中でどのように成り立ち、どのように変化していくのかを問う重要な哲学的課題です。西田の哲学は、単なる理論ではなく、実際の人間存在や社会の中に根ざした深い知見を提供しています。従って、彼の思想は、現代における自己理解や人間関係の構造を考える上でも、依然として重要な意味を持つと言えるでしょう。

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