網 (松本清張)

小説『網』について

松本清張の長編推理小説『網』は、戦時中の軍人精神と戦後の社会情勢が複雑に絡み合った背景を通して、連続殺人事件を描き出しています。本作は、1975年から1976年にかけて『日本経済新聞』に連載された「黒の線刻画」の第一話として発表され、1984年には光文社文庫から刊行されました。物語の根幹には、過去の戦友との再会や選挙を巡る疑念が息を潜めた複雑な人間関係が広がっています。

あらすじ

物語の主役である小説家・小西康夫は、かつての戦友である沼田貞一が社長を務める中北新聞に小説を連載することになります。しかし、この新しい展開が思わぬ事件に導くことになりました。衆議院解散総選挙後、沼田の周囲の人物が相次いで失踪。一方、小西のもとには奇妙な人物が現れ、彼に巡礼歌が送られてきます。この歌は四国八十八箇所に由来するものであり、小西には不吉な暗示を感じさせます。物語は彼の予想を超えた展開を見せ、小西は事件の真相を追うために現場を訪れ、推理を深めていくことになります。

主な登場人物

小西康夫は、自身の小説がなかなか世に認められずにいる作家です。彼は軍隊では教育召集の二等兵として活動していました。対照的に、沼田貞一は地方紙である中北新聞社の社長であり、自身も現役志願兵として軍隊に参加し小西と同じ班に所属していました。

小西の妻、小西登代子や、彼の従弟である桑木二郎は、彼を支える人物たちとして物語に登場します。桑木は地方検察庁の次席検事であり、選挙違反の捜査に関わっています。さらに、坂井大助という香月町の地酒の醸造元の主人や、その次男の真二、与党新人候補者の選挙参謀である土井謙蔵、そして小西と同じ班にいた先任上等兵の斉藤久太郎など、多様なキャラクターが物語に厚みを持たせています。

エピソード

興味深いことに、著者は本作の中で選挙違反に関する記述にあたり、高橋秋一郎の研究を手掛かりにしたとされています。彼は、「候補者から選挙活動に関する資金を受け取るものの、実行に移さず、最終的には自らが選挙違反に陥らない方法として、地元新聞社の社長がその資金で負債を清算した」というアイデアを書き付けています。

関連項目

作中には軍人勅諭の暗唱が話題に上がる沼田の姿や、戦闘綱要をかつてかすかに記憶している小西の様子が描かれています。また、物語の舞台には中丸町や白銀林道などが登場し、実在の場所とともに作中のゴルフ場の存在についても触れられています。

『網』は、松本清張による深い人間描写と高度なミステリー構成が印象的な作品であり、戦争の影が色濃く残る社会における人々の葛藤を巧みに描写しています。

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