網赤血球

網赤血球（もうせっけっきゅう、英語名：Reticulocyte）は、血液を構成する細胞の一つである赤血球が成熟する過程で見られる、比較的若い段階の細胞です。日本語では「網状赤血球」とも呼ばれます。

赤血球のもととなる細胞は骨髄の中で段階を経て分化・成熟していきますが、最終段階である正染性赤芽球から細胞核が細胞の外へ押し出されて失われることで、網赤血球が誕生します。成熟した赤血球は細胞核を持ちませんが、この網赤血球も同様に核はありません。しかし、核が失われた直後であるため、細胞質の中にはリボソーム（ポリリボソーム）やミトコンドリアといった細胞内小器官がまだ残存しています。

この若い赤血球は、成熟赤血球に見られるような中央がくぼんだ円盤状の形にはまだ完全に整っていません。細胞内に残ったリボソームやミトコンドリアは、引き続きヘモグロビンを合成する役割を果たしています。網赤血球の段階で、赤血球が最終的に持つことになるヘモグロビンの量のうち、およそ10%から30%がここで合成されるとされています。

「網赤血球」という名称は、特殊な染色方法によって細胞を観察した際に、細胞内に特徴的な構造が網のように見えることに由来しています。具体的には、ニューメチレンブルーなどの色素を用いた「超生体染色」と呼ばれる手法を用いると、網赤血球に残存するリボソームがタンパク質と結合した複合体を形成し、さらにその他の細胞内小器官を巻き込みながら細胞質内で凝集します。この凝集したリボソームに含まれるRNAが色素と反応して青く染まり、顕微鏡下で観察するとあたかも網目状の構造のように見えるのです。

網赤血球は、生成された後、骨髄の中に約2日間留まります。その後、血液循環の中に入り、末梢血中を流れる間にさらに成熟が進みます。血中に出てからおよそ1日から2日の間に、細胞内に残っていたリボソームやミトコンドリアなどの細胞内小器官が失われ、完全に成熟した赤血球へと変化します。

健康な人の場合、末梢血中の赤血球全体に占める網赤血球の割合は比較的少なく、およそ0.5%から1.5%程度です。この割合は、体内で新しい赤血球がどの程度の速さで供給されているか、すなわち骨髄での造血機能の活動状態を示す指標となります。

網赤血球の数が正常範囲から変動することは、特定の生理的あるいは病的な状態を示唆します。例えば、網赤血球が増加している場合は、骨髄が活発に赤血球を産生している状況が考えられます。これは、赤血球が異常に早く壊されてしまう溶血性貧血などによって失われた赤血球を補おうとしている場合や、貧血の治療を開始して造血が促進されている時期、あるいは酸素濃度が低い高地へ移動して体が酸素不足に対応するために赤血球産生を増やしている場合などが挙げられます。一方、網赤血球の数が減少している場合は、骨髄での赤血球を作る能力が何らかの原因で低下している可能性が示唆されます。例えば、再生不良性貧血や特定の薬剤の副作用など、骨髄の機能が抑制されている状況が考えられます。

このように、網赤血球の数を測定することは、貧血などの血液疾患の診断や治療効果の判定において非常に重要な検査項目の一つとなっています。その数を見ることで、骨髄がどの程度活発に新しい赤血球を供給しているかを評価することができるため、造血機能の状態を把握するための有用な指標として臨床現場で広く利用されています。

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