綾部恒雄

綾部 恒雄（あやべ つねお、1930年1月3日 - 2007年8月6日）は、戦後日本の文化人類学分野において、その確立と発展に多大な貢献をした中心的な研究者の一人です。文学博士の学位を持ち、特に文化人類学および宗教人類学を専門としました。その研究対象地域は広く、東南アジアや北アメリカを中心に精力的なフィールドワークと分析を行いました。

経歴

綾部氏は、国際的な視野と国内での教育・研究経験を豊富に持ち合わせていました。1961年にはアメリカ合衆国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）大学院に留学し、異文化への理解を深めました。その後、1963年には国際連合教育科学文化機関（ユネスコ）の企画専門員としてパリやバンコクで勤務するなど、国際機関での実務経験も積んでいます。

帰国後、日本の大学で教職に就き、1974年に九州大学教授、1978年には筑波大学教授に就任しました。筑波大学では長年にわたり教育と研究を牽引し、後に名誉教授の称号を授与されています。学会活動にも積極的に取り組み、1980年には日本民族学会（現在の日本文化人類学会）の会長を務め、国内の文化人類学研究を主導しました。また、この間にはアメリカのスタンフォード大学やマサチューセッツ大学、カナダのマギル大学など、海外の著名な大学で客員教授として招聘され、国際的な学術交流にも尽力しました。晩年まで教育に情熱を注ぎ、1996年には京都文教大学副学長、2000年からは城西国際大学人文学部教授として教壇に立ち続けました。

研究業績

綾部氏の最大の業績は、第二次世界大戦後の日本における文化人類学を、ひとつの確立された学問分野として発展させたことです。氏は生涯にわたって、単著、編著、共編著、翻訳書を合わせて何百点にも及ぶ著作や論文を発表し、文化人類学の多様なテーマを探求しました。

特に、社会集団としての「クラブ」や「秘密結社」に関する研究は先駆的であり、『アメリカの秘密結社』や『クラブの人類学』といった著作で、これらの集団が持つ文化的な意味や社会構造における役割を詳細に分析しました。また、「エスニシティ（民族性）」の研究にも深く関わり、変化する現代世界における民族集団のあり方やアイデンティティの問題を考察しました。『現代世界とエスニシティ』や、多数の編著・共編著を通じて、このテーマに関する国内研究をリードしました。

地域研究としては、東南アジア、特にタイの社会と文化に関する研究は重要であり、『タイ族――その社会と文化』などの著作があります。さらに、北アメリカ、特にアメリカ合衆国やカナダにおける多文化社会やエスニシティに関する研究も幅広く行い、『アメリカの民族集団』、『カナダ民族文化の研究』といった編著は、両国の社会構造を理解する上で貴重な貢献となりました。

また、文化人類学の入門書や概説書、理論解説書なども多数編纂しており、『文化人類学15の理論』、『文化人類学最新術語100』、『よくわかる文化人類学』などは、文化人類学を学ぶ多くの人々にとって基礎となる文献となっています。海外の重要な古典であるヘネップの『通過儀礼』を翻訳するなど、海外の研究成果を日本に紹介する役割も果たしました。これらの多岐にわたる著作活動は、日本における文化人類学の知的な基盤を築く上で極めて重要でした。

死去と栄典

綾部恒雄氏は、2007年8月6日、腎臓がんのためご自宅で逝去されました。77歳でした。その長年にわたる学術的な功績と教育・社会への貢献に対して、没後、2007年に正四位に叙せられ、瑞宝中綬章を授与されました。

まとめ

綾部恒雄氏は、戦後日本の文化人類学を牽引し、学問分野としての確立と普及に多大な貢献をした偉大な人類学者です。国内外での豊富な経験と、広範な研究対象、そして多数の著作を通じて、日本の文化人類学研究に不可欠な足跡を残しました。その業績は、今日の文化人類学研究にも影響を与え続けています。

もう一度検索