総統地下壕

総統地下壕とは

総統地下壕（Führerbunker）は、ドイツ・ベルリンにあった総統官邸の地下に設けられた、文字通り地下壕です。1935年に最初の地下壕が建設され、戦況が悪化するにつれて、より強固な防御機能を備えた新壕が1943年に建造されました。この二つの壕は階段で接続され、約30もの部屋に区切られていました。新造部分が「フューラーブンカー」、旧造部分が「フォアブンカー」と呼ばれていました。

この地下壕は、上部が4メートル、周囲と下部が最低2.5メートルの強化コンクリートで覆われ、深さは15メートルにも達しました。その堅牢さから、空襲やベルリン攻防戦における激しい攻撃にも耐え抜きました。

地下壕は、総統大本営としての役割を果たし、国防軍最高司令部(OKW)や陸軍総司令部(OKH)、空軍総司令部(OKL)といった国防軍の中枢に関わる人物が勤務していました。しかし、ヒトラーは関係者以外の立ち入りを厳しく制限しており、恋人であり後に妻となるエーファ・ブラウンも、空襲時の避難を除いてはほとんど立ち入ることはありませんでした。

1945年1月16日から、ヒトラーはここで生活を始めました。ヒトラーと宣伝相のヨーゼフ・ゲッベルスらがフューラーブンカーに居住し、その他の者たちはフォアブンカーに居住しました。赤軍がベルリンに迫る中、4月15日には、疎開先からベルリンに戻ったエーファが地下壕に家具を運び込み、ヒトラーのそばで共に過ごすことを決意しました。

ベルリン攻防戦と地下壕

1945年4月20日、ヒトラーは56歳の誕生日を地下壕で迎えました。この日には、ゲーリング、デーニッツ、カイテル、リッベントロップといった政軍の高官たちが集まり、誕生日を祝いました。しかし、その日の午前中には赤軍の砲撃が始まり、ベルリンが戦場となることは明白でした。高官たちはヒトラーにベルリンからの避難を勧めましたが、彼はベルリンに留まることを決意しました。

4月22日、ベルリン防衛の遅れに激怒したヒトラーは自殺をほのめかし、幹部たちは説得に当たりました。同日には、一部の職員が地下壕から避難しましたが、エーファや秘書たちはヒトラーのそばに残ることを選びました。翌23日、ゲーリングが連合国との降伏交渉を試みたことを知ったヒトラーは激怒し、ゲーリングの全ての官職を剥奪しました。

この頃の地下壕の様子について、アルベルト・シュペーアは「英雄気取りのゲッベルス、疲れ切ったヒトラー、権力闘争に燃えるボルマン、異常な多数者の中で、エーファだけが冷静であった」と回顧しています。4月25日には、ベルリン市が赤軍によって完全に包囲されました。

最期の日々と終焉

4月26日には、グライム上級大将がベルリンに到着し、空軍総司令官に任命されました。しかし、戦況は悪化の一途をたどり、4月28日にはヒムラーが単独で和平交渉を行っていたことが発覚し、全ての役職を解任されました。

4月29日、ヒトラーはユンゲを呼び出し、政治的遺言と個人的遺言を口述しました。その後、ヒトラーとエーファは結婚式を挙げました。そして、遺言書に署名した後、ヒトラーは後継者にデーニッツ、首相にゲッベルスを指名しました。4月30日には、ヒトラーは自殺方法について主治医に相談し、愛犬のブロンディで青酸カリの効力を試しました。

同日午後3時、ヒトラーは側近たちと最後の別れを交わし、エーファと共に自室に入りました。そして午後3時40分、ヒトラーとエーファは自室で亡くなっているのが発見されました。遺体は総統官邸の中庭で焼却されました。

5月1日には、ゲッベルスも家族を道連れに自殺しました。翌5月2日、ベルリン防衛軍は赤軍に降伏し、総統地下壕は赤軍によって占領されました。

戦後と現在

戦後、地下壕はソ連や旧東ドイツ政府によって取り壊しが試みられましたが、あまりにも強固な作りだったため、撤去することができませんでした。1980年代には大規模宅地開発の際に掘り起こされましたが、その後埋め戻されています。

長らくネオナチの聖地になることを懸念し、跡地を示すものは特にありませんでしたが、2006年に案内板が設置されました。現在、跡地には駐車場などが存在しています。

総統地下壕は、第二次世界大戦の終末期を象徴する場所であり、多くの人々の運命が交錯した歴史的な場所です。ヒトラーの最後の場所となったこの地下壕は、今もなお多くの謎と歴史的教訓を私たちに伝えています。

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