繁藤災害

繁藤災害（しげとうさいがい）

1972年7月5日、高知県香美郡土佐山田町（現・香美市土佐山田町）繁藤の繁藤駅周辺で発生した大規模な土砂災害です。

概要

1972年7月4日から5日にかけて、四国山地に停滞した湿った空気（湿舌）の影響で、繁藤地区は記録的な豪雨に見舞われました。1時間雨量95.5mm、24時間雨量742mmという激しい雨により、地盤が緩み、小規模な土砂崩れが多発していました。

7月5日午前6時45分頃、降り始めからの雨量が600mm近くに達した頃、繁藤駅前にそびえる追廻山の山腹が一部崩壊。人家裏で土砂を除去していた消防団員1名が土砂に埋もれ行方不明となる事態が発生しました。町職員や消防関係者約120名が、雨の中、重機を使用して捜索活動を開始しました。

しかし、雨はさらに激しさを増し、降り始めからの雨量が780mmに達した午前10時50分頃、最初に崩壊した山腹が、今度は幅170m、長さ150m、高さ80mにわたって大規模に崩壊。約10万m³もの土砂が、駅周辺の民家、駅、そして3番線に停車中の高知発高松行き224列車（機関車DF50 45号機牽引、客車4両）を飲み込みました。この土石流は、救助活動を行っていた町職員や消防団員、周辺住民、列車の乗務員・乗客をも巻き込み、駅背後を流れる穴内川を埋め尽くしました。

機関車は土砂に押し流され、川の対岸にまで達し、1両目の客車が機関車の上に乗り上げるように埋没。2両目の客車は崩れ残った路盤に宙吊りとなるという、凄惨な状況となりました。3両目と4両目の客車は辛うじて被災を免れました。

被害

自衛隊、機動隊、消防など、総勢1,300人による捜索・救出活動が約1ヶ月間続けられ、延べ約2万人が従事しました。しかし、最終的に死者60名（大崩壊による死者は59名）、負傷者8名、家屋全壊10棟、半壊3棟という甚大な被害となりました。駅構内は土砂に飲み込まれ、土讃本線（現・JR四国土讃線）は一部路盤を失い、23日間にわたって不通となりました。

原因

災害の原因は、追廻山の山腹が元々脆弱な岩盤構造であったことに加え、集中豪雨によって土中に大量の水分が浸透し、地盤が緩んだことでした。最初の小崩壊によって、上部の破砕帯が地下水の流出経路を失い、さらに多くの地下水が貯留され、飽和状態になったことで大規模な崩壊が発生したと考えられています。

その他

この災害は、最初の小崩壊による行方不明者の捜索中に発生した「二次災害」であり、その後の訴訟では、行政の責任が問われました。裁判では、災害発生当時の現場状況から、消防団員が大規模崩壊を予測できたかどうかが争点となりました。一審では原告が勝訴しましたが、控訴審で覆され、最高裁で和解が成立しました。

この災害の教訓から、高知県の防災行政が見直され、消防団員の研修内容に「現場の状況から危険を察知し避難する判断力の重視」という項目が追加されました。現在、繁藤駅近くの国道32号線沿いには慰霊碑が建立され、毎年慰霊祭が執り行われています。この慰霊碑は、列車の窓からも見ることができます。

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