罪の手ざわり

ジャ・ジャンクー監督の2013年作品『罪の手ざわり』（原題：天注定）は、中国の社会問題を鋭くえぐる重厚なドラマです。山西省の炭鉱、重慶、湖北省、広東省と、舞台は中国各地に渡り、それぞれ異なる境遇の4人の物語が並行して描かれます。

物語は、故郷に戻る途中に強盗を射殺したチョウから始まります。彼はその後も強盗を繰り返し、危険な生活を送ります。一方、山西省の炭鉱村では、ダーハイが村の炭鉱が売却されたことに怒りを燃やします。村長や資本家への訴えも虚しく、ダーハイは絶望の淵に突き落とされ、やがて猟銃を手に、悲劇的な行動に出ます。

湖北省では、不倫関係に終止符を打ち、新たな町で風俗店の受付として働くシャオユーが、ヤクザからの性的暴行に抵抗し、命がけの選択を迫られます。

広東省では、工場で働くシャオホイが、金髪青年の事故に巻き込まれ、工場を解雇されます。ナイトクラブで働き始める彼ですが、そこで出会った女性との関係や、事故を起こした金髪青年の脅迫に苦しみ、自ら命を絶ってしまいます。

それぞれの物語は、一見無関係に見えますが、中国の格差社会や貧富の差、社会構造の歪みといった共通のテーマが底流に流れています。登場人物たちは、社会の矛盾に翻弄され、行き場を失い、悲劇的な結末を迎えます。

『罪の手ざわり』は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、脚本賞を受賞しました。キネマ旬報の2014年外国映画ベストテンでは3位にランクインするなど、高い評価を受けています。しかし、中国国内では現在も公開されていません。

この映画は、中国社会の闇の部分をリアルに描き出し、観る者の心に深く突き刺さる作品です。登場人物たちの苦悩や葛藤、そして絶望が、繊細かつ力強い映像によって表現されています。監督のジャ・ジャンクーは、それぞれの物語を丁寧に描き、観客にそれぞれのキャラクターの背景や心情を理解させ、彼らの行動に共感させようとしています。

チョウ、ダーハイ、シャオユー、シャオホイ、それぞれのキャラクターは、中国社会の縮図と言えるでしょう。彼らが抱える問題、葛藤、そして選択は、現代社会における普遍的なテーマを問いかけてきます。

中国の社会問題に興味がある方、あるいは社会派ドラマが好きな方にとって、『罪の手ざわり』は必見の作品です。中国社会の複雑な現実と、そこで生きる人々の姿を垣間見ることができるでしょう。映画のラストシーンでは、シャオユーが任侠劇を見て涙する場面があります。これは、社会の不条理に対する無力感と、それでもなお生き続ける希望を象徴しているのかもしれません。

映画は、中国社会の様々な問題点を浮き彫りにしながらも、同時に人間の強さと弱さ、そして希望も描いています。それぞれの登場人物の運命は、観る者の心に深い余韻を残すことでしょう。現在でも中国で公開されていないという事実も、この映画の持つ社会的な意義を改めて考えさせるものです。

もう一度検索