羅生門式調査手法

羅生門式調査手法とは

羅生門式調査手法（Rashomon-like technique）は、社会調査、特に質的な調査において用いられる手法の一つです。この手法は、ある特定の出来事や状況について、複数の関係者（特に家族）から個別に話を聞き出すことで、それぞれの視点から出来事を捉えようとします。このアプローチの最大の特徴は、出来事に対する捉え方が、個人の立場や経験によって大きく異なるという前提に立っている点です。

手法の由来

この手法の名称は、黒澤明監督の映画『羅生門』に由来しています。『羅生門』は、ある事件について、登場人物たちがそれぞれ異なる証言をするという物語です。この映画のように、現実の出来事も、個人の認識や解釈によって様々な側面を持つという考え方が、羅生門式調査手法の根底にあります。

調査方法の詳細

羅生門式調査手法では、まず調査対象となる家族を選定します。そして、家族のメンバーそれぞれに、過去の出来事や生活史について個別にインタビューを行います。この際、それぞれの語りを相互に比較・分析することで、一つの出来事が持つ多面性や、家族内の力関係、メンバー間の認識のずれなどを明らかにしていきます。

具体的には、以下のような手順で調査を進めます。

1. 調査対象の選定: 家族を対象とする場合が多いですが、グループインタビューなどでも応用可能です。
2. 個別インタビューの実施: 各メンバーに対して、同じ出来事やテーマについて自由に語ってもらいます。インタビューでは、質問を投げかけるだけでなく、語り手の感情やニュアンスを注意深く聞き取ることが重要です。
3. 語りの比較分析: 各メンバーの語りを比較し、共通点や相違点、矛盾点などを抽出します。それぞれの語りの背景にある社会的、文化的、個人的な要因を分析します。
4. 解釈の提示: 分析結果を踏まえ、出来事に対する複数の解釈を提示し、全体像を明らかにします。

メリットとデメリット

メリット

多角的な視点の獲得: 一つの出来事に対して、複数の視点からアプローチすることで、より多面的で深い理解を得ることができます。
主観的な解釈の可視化: 各個人の主観的な解釈を明らかにすることで、客観的な事実だけでは見えてこない側面を捉えることができます。
家族関係の理解: 家族内のコミュニケーションパターンや力関係を把握することができます。

デメリット

時間とコストがかかる: 個別インタビューを複数回行うため、調査に時間と労力がかかります。
データ分析の難易度が高い: 複雑なデータを分析する必要があるため、分析者の熟練したスキルが求められます。
客観性の確保が難しい: 各個人の主観的な解釈を扱うため、客観的な事実をどこまで捉えられているかの判断が難しい場合があります。

関連する調査手法

雪ダルマ式手法（snowball technique）: 調査対象者から次の調査対象者を紹介してもらう手法で、特定のグループへのアクセスが難しい場合に有効です。
三角測量的手法（triangulation）: 複数の調査方法やデータソースを用いて、結果の妥当性を検証する手法です。

参考文献

森岡清美他編 『新社会学辞典』 1992年　ISBN 4-641-00258-4

その他の情報

羅生門式手法（Rashomon-like technique）（関心空間）

羅生門式調査手法は、質的な調査において、人間の認識の多様性を理解するための強力なツールです。しかし、その特性を理解した上で、慎重に活用することが重要です。

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