美しいひと

映画『美しいひと』解説

クリストフ・オノレ監督による2008年のフランス映画『美しいひと』（原題: La Belle Personne）は、古典文学を現代的な視点で再解釈した青春恋愛ドラマです。ラファイエット夫人の小説『クレーヴの奥方』を原案とし、舞台を現代フランスの高校に移しています。

日本では劇場公開されていませんが、2009年のフランス映画祭で上映され、その後DVDが発売されました。

あらすじ

母親を亡くしたジュニーは、従兄弟のマチアスの家に身を寄せ、パリの高校に転校します。新しい環境で、マチアスの友人たちが彼女に惹かれる中、ジュニーは静かな性格のオットーを選びます。一方、イタリア語教師のヌムールは、同僚や生徒との関係を持ちながらも、ジュニーに一目で心を奪われます。

ジュニーとヌムールが廊下で抱き合っている場面を目撃したオットーは、絶望のあまり校舎から飛び降ります。ヌムールはこれまでの関係を清算し、休職してジュニーに愛を告白しますが、愛が失われることを恐れたジュニーは彼の求愛を拒み、パリを去る決意をします。

キャスト

ヌムール: ルイ・ガレル
ジュニー: レア・セドゥ
オットー: グレゴワール・ルプランス＝ランゲ
マチアス: エステバン・カルバジャル・アレグリア
カトリーヌ: アナイス・ドゥムースティエ

受賞・ノミネート

ナミュール国際フランス語圏映画祭 (2008年) 最優秀女優賞: レア・セドゥ
サン・セバスティアン国際映画祭 (2008年) 出品
ロンドン映画祭 (2008年) 公式選定作品
フランス映画祭 (2009年) 長篇映画部門
セザール賞 (2009年) 最優秀脚本賞、最優秀新人女優賞、最優秀新人男優賞にノミネート

制作背景

本作は、クリストフ・オノレ監督の『ジョルジュ・バタイユ ママン』『パリの中で』に続く3部作の完結編であり、パリ、若者、冬、ミュージカルシーンといった要素が共通しています。監督は、パリの冬の靄がかった灰色の風景が俳優たちの美しさを際立たせると語っています。

また、当時のフランス大統領サルコジが『クレーヴの奥方』を学校で教えることへの批判的な発言に異を唱え、現代を舞台に翻案されたという背景があります。

ジュニーという名前は、ラシーヌの戯曲『ブリタニキュス』に登場する巫女に由来し、理想の愛を求めるジュニーの姿と重ねられています。一方、ヌムールは原作の公爵と同じ名前が与えられています。

撮影について

撮影は2007年12月27日から2008年1月30日までの約1ヶ月間、パリ16区にあるリセ・モリエールなどで行われました。パリの街並みが映画の背景として効果的に使用されています。

古典を現代に置き換え、普遍的な愛と喪失を描いた『美しいひと』は、観る者の心に深く残る作品です。

もう一度検索