羽二重餅

羽二重餅（はぶたえもち）

羽二重餅は、日本の福井県に古くから伝わる和菓子です。その主たる材料は餅粉で、これを蒸した後に砂糖や水飴を加え、丹念に練り上げて作られます。出来上がりは、非常に柔らかく、絹のような滑らかな舌触りが特徴です。一般的に「求肥（ぎゅうひ）」と呼ばれる菓子と製法や食感が似ており、求肥を単独の和菓子として完成させたものと位置づけることができます。

この菓子の「羽二重」という名は、福井県の歴史的な産業と深く結びついています。福井県では、江戸時代から繊維産業が盛んであり、中でも「羽二重」は最高級の絹織物として知られていました。薄く、光沢があり、しっとりとした手触りを持つ羽二重は、明治時代以降、福井県が全国一の生産量を誇る代表的な特産品となります。羽二重餅は、この美しい絹織物の色合いや、指先を滑るようななめらかな風合いを和菓子で表現しようと考案されたものといわれています。

地元福井県では、長年にわたり人々に親しまれてきた郷土菓子です。その正確な誕生時期については諸説あり、江戸時代末期から明治時代にかけてのことと考えられていますが、詳しい資料が失われているため定かではありません。誕生に関する記録が不明確な背景には、当時の人々の権利意識が現代ほど高くなかったことや、第二次世界大戦中の福井空襲によって市街地が壊滅的な被害を受け、多くの資料が焼失してしまったことなどがあります。なお、原料となる餅や求肥といった菓子自体は、羽二重餅が誕生するよりもはるかに古い時代から日本に存在しています。

羽二重餅は、特定の製造元に限定されない「慣用商標」となっています。これは、沖縄県の伝統菓子であるちんすこうなどと同様の扱いであり、商標権が設定されていない状態です。このため、「羽二重餅」という名称は、福井県内の様々な菓子店だけでなく、日本全国、さらには海外においても、求肥を主とした類似の菓子に対して広く使用され、製造・販売されています。事実上、求肥系の和菓子を指す代名詞として用いられることも少なくありません。

羽二重餅、あるいはそれに類する求肥を用いた菓子は、他の形で様々なバリエーションを生み出しています。例えば、株式会社ロッテが販売し、広く親しまれている冷凍菓子「雪見だいふく」は、羽二重餅のような柔らかい餅生地でアイスクリームを包んだものです。また、求肥や羽二重餅を薄く伸ばして餡子（あんこ）などの包み、一口サイズに仕上げた和菓子も各地に存在します。愛知県の「きよめ餅」、滋賀県や京都府の「走井餅」、山口県の「舌鼓（したつづみ）」などがその代表例として挙げられ、それぞれの地域で独自の特色を持っています。このように、羽二重餅は単体で楽しむだけでなく、他の素材と組み合わせることで多様な菓子へと発展しているのです。

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