老春 (松本清張)

『老春』

松本清張による短編小説『老春』は、1961年11月号の『新潮』に掲載され、1963年に『松本清張短篇総集』として出版されました。この作品は、老いと性欲、孤独というテーマを扱っており、1990年にはテレビドラマ化もされました。

あらすじ

主人公、太田重吉は78歳の老父で、長い間裏の離れに住んでいます。若い頃は多くの女性と関係を持っていましたが、今では自堕落な生活を送り、一日中万年床の上で過ごしています。雑貨商を営む息子夫婦とは、徐々に距離を置くようになっていました。

ある日、22歳の女中、好子が家に来ます。この好子の存在は重吉に大きな影響を与え、彼は彼女に頼るようになっていきます。自分の過去を完全に忘れ、自分の価値観を押し付けるように彼女に厳しいことを言い始めます。しかし、好子が近所の若者と仲良くなると、重吉の心に嫉妬が芽生え始めます。好子がその若者と同棲することを決めた際、重吉は激昂し、彼を罵倒するためにアパートにまで乗り込んでいきます。

さらに、春子という新たな女中が重吉のもとにやってきます。重吉は再び感情的になり、春子に対して独占的な思いを抱き、彼女を守るためだと称して居丈高に命令を下します。だが、今回は春子が好子と親しくなっていることが発覚し、重吉の嫉妬心は再燃します。

ある晩、栄造の取引先の客が家に泊まることになると、重吉は夜中に懐中電灯を持って春子と客の様子をうかがいに行きます。その結果、客は早々に退散し、春子も持ち物をまとめて家を出ることに。これに激怒した栄造は、重吉に対して歳を考えずに若い女性に嫉妬するのはみっともないと諭しますが、重吉は逆上してしまいます。

結局、重吉は置き手紙を残して、栄造夫妻の前から姿を消します。このストーリーは、重吉の内面的な葛藤や、老いても消えない人間の欲望を鋭く描き出しています。

エピソード

本作について、松本清張は「老人の性欲について描いた」と言及しています。彼はこのテーマに対し、さらに続編を書く意欲があったことも示しています。

テレビドラマ

1990年には、日本テレビ系列の「木曜ゴールデンドラマ」で『老春』がドラマ化され、観客の注目を集めました。サブタイトルは「女に惚れてなぜ悪い！？老いゆく父の奇行におびえる家族」で、さまざまなキャストが出演しました。

キャストには、花沢徳衛（重吉）、井上順（栄造）、浅利香津代（比佐子）、七瀬なつみ（好子）、岡本麗（春子）などが名を連ね、作品の魅力を引き立てました。

最後に

『老春』は、高齢化社会の問題や、家族関係の複雑さ、そして人間が抱える欲望について考えさせる深い作品です。」

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