耶律濬

耶律濬（やりつ しゅん）：遼の皇太子、悲劇の生涯

耶律濬（やりつ しゅん）は、遼（契丹）の皇太子であり、後の天祚帝の父です。清寧4年（1059年）に道宗と宣懿蕭皇后の長男として生まれ、幼名は耶魯斡（やるおつ）と名付けられました。廟号は順宗。

幼少期から皇太子へ

幼い頃から学問を好み、聡明であったため、父である道宗を大いに喜ばせました。清寧9年（1063年）には梁王に封じられ、清寧10年（1064年）には道宗の狩猟に参加し、弓矢の腕前を披露するなど、将来を嘱望される存在でした。そして、咸雍元年（1065年）に正式に皇太子に立てられます。

太康元年（1075年）には、北南枢密院事を兼領するなど、政治にも関与するようになります。しかし、この頃から耶律濬の運命は暗転し始めます。

悲劇の始まり

母である宣懿蕭皇后が自殺に追い込まれ、さらに耶律乙辛（やりつ いしん）が北院枢密使となると、耶律濬は自身の将来に大きな不安を抱くようになります。そんな中、護衛の蕭忽古（しょう こつこ）が耶律乙辛を殺害しようと計画していることが発覚し、蕭忽古は投獄されてしまいます。副点検の蕭十三（しょう じゅうさん）は、この事件を利用し、太子が即位した際には自分の立場が危うくなると考え、耶律乙辛の不安を煽りました。

陥れられた皇太子

太康3年（1077年）5月、耶律乙辛は右護衛太保の耶律査剌（やりつ さつら）に命じ、都宮使の耶律撒剌（やりつ さつら）らが皇帝の廃立を計画していると誣告させます。道宗が調査を命じましたが、証拠が見つからなかったため、この訴えは一旦退けられました。しかし、耶律乙辛は諦めませんでした。6月、牌印郎君の蕭訛都斡（しょう かとあつ）らに命じて、蕭速撒（しょう そくさつ）らが皇太子を即位させる陰謀を企てていると再び誣告したのです。道宗はこれを信じ、耶律濬を別室に幽閉し、耶律燕哥（やりつ えんか）に取り調べを行わせました。耶律濬は「私は皇太子として、他に何を求める必要があるだろうか。どうか私のために弁護してほしい」と訴えましたが、耶律燕哥は耶律乙辛の仲間であったため、その言葉を歪曲して道宗に報告しました。これにより、道宗は激怒し、太子を廃して庶人に落としました。宮殿から連れ出される際、耶律濬は「私は何の罪があってこのような目に遭うのか」と嘆いたと伝えられています。蕭十三は車に乗り込み、衛士に車の扉を閉めさせ、耶律濬は上京へと移送され、円塀の中に幽閉されました。

悲惨な最期

11月、耶律乙辛は蕭達魯古（しょう たつろこ）や蕭撒八（しょう さっぱつ）を派遣し、耶律濬を殺害させました。享年20歳という若さでした。上京留守の蕭撻得（しょう たつとく）は、病死として道宗に報告しました。道宗は息子の死を深く悲しみ、遺体を龍門山に葬らせました。その後、道宗が耶律濬の妃である蕭氏を召し出そうとしたため、耶律乙辛は密かに人を派遣して妃も殺害しました。

死後の名誉回復

道宗は後に、耶律濬が冤罪であったことを知り後悔しましたが、既に手遅れでした。昭懐太子と諡を贈り、天子の礼をもって玉峰山に改葬させました。乾統元年（1101年）10月、天祚帝により大孝順聖皇帝と追尊され、廟号を順宗とされました。妃の蕭氏も貞順皇后と追尊されました。

子女

子：耶律阿果（天祚帝）
女：耶律延寿（秦晋国長公主、蕭韓家奴の妻）

伝記資料

* 『遼史』巻72 列伝第2

耶律濬の生涯は、遼王朝の権力闘争の犠牲となった悲劇の皇太子の物語として、後世に語り継がれています。

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