宣懿蕭皇后

宣懿蕭皇后（せんいしょうこうごう）

宣懿蕭皇后は、遼（契丹）の道宗の皇后であり、その生涯は美貌と才能、そして悲劇に彩られています。小字は観音。欽哀蕭皇后の姪にあたります。

生涯

欽哀蕭皇后の弟である枢密使、蕭恵の末娘として生まれました。幼い頃から容姿は人並み外れて美しく、詩作に秀で、弁舌も巧みであったと伝えられています。自ら歌詞を書き、琵琶の演奏を最も得意としました。

重熙年間、燕趙王耶律洪基（後の道宗）に迎えられ、王妃となります。道宗にとっては、父である興宗の従兄弟の娘にあたります。

清寧元年（1055年）、道宗の即位に伴い、皇后に立てられました。翌清寧2年（1056年）には懿徳皇后と号します。ある時、皇太叔である耶律重元の妻が派手な化粧で着飾っているのを見た皇后は、「貴家の婦人たる者が、どうしてそのようにする必要がありましょうか」と戒めたと言われています。

清寧4年（1058年）、皇子の耶律濬を出産。皇后自ら、愛情深く育てました。音楽を愛した皇后は、伶官の趙惟一を側近として仕えさせました。

しかし、太康元年（1075年）11月、皇后の運命は暗転します。宮婢の単登と教坊の朱頂鶴が、皇后と趙惟一が私通していると誣告したのです。枢密使の耶律乙辛がこの件を道宗に奏聞し、道宗は耶律乙辛と張孝傑に調査を命じました。その結果、誣告であるにもかかわらず、事実であるとされてしまいます。趙惟一は一族もろとも処刑され、皇后は死を賜り、自害しました。遺体は実家に送り返されたと伝えられています。

乾統元年（1101年）6月、宣懿皇后と追諡され、慶陵に道宗と合葬されました。

伝記資料

『遼史』巻71 列伝第1
『奏懿徳皇后私伶官疏』
* 王鼎 著『焚椒録』

王鼎の著書『焚椒録』は、宣懿蕭皇后の誕生から悲劇的な死までを描いた実録小説です。美しく生真面目な皇后が、夫の叔父である重元の妻を戒めたことから逆恨みされ、重元の謀反を誘発した事から物語は始まります。狩猟に夢中になり身の危険を顧みない夫を諫めて愛情を失い、重元に仕えていた女官が乙辛に内通して皇后を陥れるまでの経緯が描かれています。滝沢馬琴は、この『焚椒録』を読んで『高尾船字文』の構想を得たとされています。

宣懿蕭皇后の生涯は、美貌と才能に恵まれながらも、宮廷内の陰謀によって翻弄された悲劇の物語として、後世に語り継がれています。

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