聖ウルスラ

聖ウルスラとは

聖ウルスラ（Saint Ursula）は、伝説に登場する聖女です。彼女は1万1千人の処女を率いて殉教したと伝えられており、中世の時代から教師や女学校教師の守護聖人として崇敬を集めてきました。しかし、現代においては、彼女の実在性については疑問視されています。伝説の発祥はドイツのケルンであるとされています。

伝説の概要

ウルスラの伝説は、9世紀頃に起源を持つとされ、その後、ケルンの教会で発見された墓石をきっかけに、13世紀に大きく広まりました。伝説によれば、ウルスラはローマ系ブリトン人の王女であり、異教徒の王子との結婚を求められました。彼女は結婚の条件として、王子に洗礼を受けさせること、1万1千人の乙女たちを率いてローマへ巡礼の旅に出ることを要求しました。しかし、巡礼の途中でフン族に襲われ、ウルスラと乙女たちは皆殺しにされてしまいます。彼女たちはケルンに埋葬され、その地に聖ウルスラ教会が建立されました。

1万1千人の根拠

なぜ、ウルスラに従った乙女の数が1万1千人という膨大な数になったのでしょうか。その理由としては、いくつかの説があります。

殉教者の名前の誤読: 初期の記録では、殉教者の数は2名または11名とされていました。しかし、「ウルスラとウンデキミリア」または「ウルスラとキミリア」という名前が、「ウルスラと1万1千人の乙女」と誤って解釈されたという説があります。
ラテン語の省略形の誤解: 「11名の殉教した処女」を意味するラテン語の省略形「XI. M. V.」が、「1万1千名の乙女たち」と誤って解釈されたという説があります。
* 聖遺物販売の影響: 中世ヨーロッパでは、出所不明の遺骨が聖遺物として大量に販売されていました。1万1千人という数字は、これらの遺骨を説明するために人々が作り出したという説もあります。

ウルスラの伝説が与えた影響

聖ウルスラの伝説は、中世ヨーロッパのキリスト教世界に大きな影響を与えました。ケルンの都市紋章には11個の炎が描かれており、これはウルスラと1万1千人の乙女を象徴しています。また、ソルボンヌ大学やウィーン大学など、多くの教育機関がウルスラを守護聖人としています。さらに、大航海時代には、クリストファー・コロンブスがヴァージン諸島を、フェルディナンド・マゼランが処女岬をウルスラに因んで命名しました。

カトリック教会での位置づけ

現代においては、ウルスラの物語は歴史的事実に基づかない創作と見なされています。1969年、カトリック教会は聖人リストの見直しを行い、歴史的実在性の低い聖人をリストから除外しました。この時、ウルスラも聖人暦から除外されています。

聖ウルスラ修道会

1535年、アンジェラ・メリチによって創設された聖ウルスラ修道会は、少女の育成と教育に尽力し、世界中に聖ウルスラの名前と崇敬を広めました。この修道会は、日本にも教育施設を設立し、女子教育に貢献しています。

聖ウルスラの伝説は、史実に基づかない部分も多いですが、中世ヨーロッパの人々の信仰心や価値観を反映した興味深い物語です。彼女の伝説は、芸術や文化にも大きな影響を与え、今日でも多くの人々に語り継がれています。

もう一度検索