聖セバスティアヌス (マンテーニャ)

アンドレア・マンテーニャの『聖セバスティアヌス』

アンドレア・マンテーニャは、初期ルネサンスを代表する画家であり、その作品は緻密な描写と古典的な要素の融合が特徴です。彼は生涯にわたり、3枚の『聖セバスティアヌス』を描きました。聖セバスティアヌスは、矢で射抜かれた殉教者であり、ペストからの守護者として崇められていました。マンテーニャが生きた時代は疫病が頻繁に流行していたため、この主題は彼にとって特別な意味を持っていたと考えられます。また、マンテーニャはマントヴァ滞在中、聖セバスティアヌスに捧げられた教会の近くに住んでいたことも、この主題への関心を深めた要因でしょう。

ウィーンの『聖セバスティアヌス』

この作品は、マンテーニャがパドヴァでのペストから回復した後に制作されたと考えられています。制作年は1456年から1457年頃。パドヴァの人文主義者であり、マンテーニャの友人であった傭兵隊長ヤコポ・アントニオ・マルチェッロのために描かれたか、あるいは疫病の終焉を記念するためにパドヴァ市長から依頼された可能性があります。この作品は、マンテーニャがマントヴァへ出発する前に完成しました。後にオーストリアハプスブルク家のレオポルト・ヴィルヘルム大公のコレクションに収蔵されました。

この絵画は、ヨハネの黙示録を題材にしているという解釈があります。左上隅に描かれた雲の中の騎手は、時間を象徴するサトゥルヌスだとされ、その鎌で雲を切り裂く様子は、破壊と変遷を表しています。マンテーニャは、聖セバスティアヌスをローマの柱ではなく、凱旋門や町の門のようなアーチを背にして描いています。また、マンテーニャは自身の作品にアルベルティの古典主義の原則を適用し、明瞭な画面構成、正確な建築描写、殉教者の優雅な姿勢を表現しています。右側にはギリシャ語でマンテーニャの署名が刻まれています。

ルーヴルの『聖セバスティアヌス』

ルーヴル美術館に所蔵されているこの作品は、元々はヴェローナの『サン・ゼーノ祭壇画』の一部でした。17世紀後半から18世紀初頭にかけて、フランスのオーヴェルニュ地方にある教会で記録されています。これは、マントヴァのフェデリコ1世の娘キアラ・ゴンザーガとジルベール・ド・ブルボンの結婚と関連していると考えられます。本作は、マンテーニャの作品として初めてフランスに入ったものです。

この絵画は、「神のアスリート」というテーマを表しており、ウィーンの作品と同様に、聖セバスティアヌスは古典的なアーチに結び付けられています。マンテーニャは、低い視点から聖人を描くことで、彼の力強さと存在感を強調しています。頭部と目が天を仰ぐ様子は、殉教に対する聖人の強い意志を示しています。足元には、聖なる信仰を持つ者と、世俗的な快楽に溺れる者との対比として、2人の射手が描かれています。マンテーニャは古代遺跡の正確な描写、イチジクの木、石のかけら、聖人の身体の写実的な描写を通して、イリュージョン効果を追求しています。古典的な風景と背景の理想化された都市は、聖人による都市の守護、そしてキリスト教の異教世界に対する勝利を表しています。

ヴェネツィアの『聖セバスティアヌス』

マンテーニャによる3枚目の『聖セバスティアヌス』は、他の2作品より数年後に描かれました（1490年頃、または1506年頃）。ただし、一部の美術史家は、これより以前のパドヴァ時代に制作されたと主張しています。この作品は、現在ヴェネツィアのフランケッティ美術館に所蔵されています。以前の2作品とは異なり、悲観主義的な印象が強く、茶色の背景の中に、苦痛に耐える聖人が描かれています。

右下隅には消えかけのロウソクがあり、その近くの巻紙には「Nihil nisi divinum stabileest. Caetera fumus」（神以外に安定したものはない。それ以外は煙である）とラテン語で書かれています。これは、人生の儚さを表すテーマであり、通常セバスティアヌスの絵画には関連付けられません。この碑文は、この作品の意図を説明するために必要だったのかもしれません。聖人の足に交差する矢印が形成する「M」の文字は、モルテ（morte=イタリア語で「死」）、またはマンテーニャ自身を表している可能性もあります。この作品は、マンテーニャの死後、彼の工房に残されていたものの一つとされています。その後、様々な収集家の手に渡り、1893年にジョルジョ・フランケッティ男爵に購入され、彼のコレクションとともにヴェネツィア市に遺贈されました。

マンテーニャの3枚の『聖セバスティアヌス』は、それぞれ異なる視点と解釈で聖人を描いています。これらの作品は、画家の技巧、古典的な要素の取り入れ方、そして宗教的な主題への深い関心を反映しており、ルネサンス美術の傑作として高く評価されています。

これらの絵画は、マンテーニャの芸術的な才能と、彼の時代における信仰や文化的な背景への洞察を示しています。

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