聖バルバラ (ゴヤ)

絵画『聖バルバラ』の特徴と歴史

『聖バルバラ』は、18世紀のスペインを代表する画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1772年頃に描かれた作品で、現在はマドリードのプラド美術館に収蔵されています。この絵画は、キリスト教の殉教者である聖バルバラを描いており、彼女の壮絶な物語が表現されています。ゴヤの初期の作品として、彼の技術やスタイルの成長を伺わせる重要な役割を果たしています。

聖バルバラの伝説

『黄金伝説』によると、聖バルバラは3世紀に小アジアのニコメディアで育った異教徒の貴族ディオスコロスの娘です。彼女は、彼女の父が求婚者から守るために塔に幽閉される中、信仰の道を歩むことを決意します。父の留守を利用して洗礼を受け、三位一体を象徴するために塔の窓を増やすなど、聖バルバラは自らの信仰を貫く姿を示しました。しかし、彼女の改宗を知った父は激怒し、彼女は捕らえられローマの当局に引き渡されました。聖バルバラは信仰を放棄しませんでしたが、果てには父によって命を奪われる運命に。しかし、ディオスコロスは雷に打たれて死ぬことになります。この伝説により、聖バルバラは砲兵や嵐から人を守る守護聖人として信仰されています。

ゴヤの描く聖バルバラ

ゴヤは『聖バルバラ』の中で、聖女を記念碑的なポーズで描写しています。聖バルバラは、頭に王冠を被り、右手には聖体顕示台、左手には殉教の象徴である棕櫚の葉を持っています。背景には、彼女が過ごしていた塔を示す三つの窓があります。この塔は彼女の幽閉を思い起こさせる重要な要素でもあります。絵画の左側には、旗を持った騎手が描かれ、物語のダイナミズムを強調しています。

ゴヤは準備素描に基づいて作品を制作しましたが、いくつかの重要な変化を加えました。たとえば、右手の位置が上昇するのではなく前方に伸ばされることで、より動的な印象を与えています。また、両足の位置も異なり、一方の踵を上げることで緊張感と動きを生み出しています。これにより、聖バルバラが亡くなった者に向けて迅速に姿を現そうとしている様子が表現されています。

デザインの根源

イギリスの美術史家、ジュリエット・ウィルソン＝バローによると、この聖女像の表現は古代ローマの彫刻『チェージのユノ』から影響を受けているとされます。特に、ゴヤがイタリア滞在中にこの彫刻を見たことが後の作品に反映されていると考えられています。また、ゴヤの素描帖にはこの古代作品から着想を得たと思われる頭部のスケッチが含まれており、制作時期の確定に貢献しています。ゴヤが妻との結婚日を記したページがあることから、『聖バルバラ』が1772年から1773年の間に制作されたことが示されます。

絵画の歴史的背景

この絵画は1932年にフアン・モリーナのコレクションに加わり、その後トレリョ・コレクションを経て、2001年にプラド美術館にて購入されました。ゴヤのこの作品は、彼の初期におけるクリエイティビティと技術の成長を示す貴重な文化遺産として今も愛されています。

このように、『聖バルバラ』は単なる絵画としてだけでなく、歴史、信仰、芸術が交錯する物語を内包した作品であり、ゴヤの巨匠としての才能を認識させるものとなっています。

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