聖フベルトゥスの幻視

『聖フベルトゥスの幻視』は、17世紀フランドルを代表する画家、ヤン・ブリューゲル（父）が風景と動物を、ピーテル・パウル・ルーベンスが聖フベルトゥスの人物像をそれぞれ担当し、共同で制作した油彩画です。1617年に板上に描かれ、バロック美術の様式を色濃く反映しています。本作は、もともと初代レガネース侯爵ディエゴ・フェリペ・デ・グスマンのコレクションでしたが、後にスペイン王室の所蔵となり、現在はマドリードのプラド美術館でその姿を見ることができます。

この絵画は、7世紀に生きた聖人フベルトゥスの物語を題材としています。フベルトゥスは、705年頃にマーストリヒトの司教に選ばれ、後にリエージュに移ってリエージュ最初の司教となりました。中世の終わり頃には、彼の生涯は聖エウスタキウスの伝説から派生した様々な逸話によって彩られるようになりました。本作に描かれているフベルトゥスの物語は、聖エウスタキウスの改宗譚と非常に類似しており、過去には聖エウスタキウスの物語として扱われていたこともあります。

物語は、フベルトゥスが妻を亡くした悲しみを癒すために狩猟に出かけた場面から始まります。森の中で見事な牡鹿に出会い、それを射止めようとした瞬間、牡鹿の角の間に十字架に磔にされたイエス・キリストが現れます。この幻視に驚愕したフベルトゥスは、ダマスコに向かう途中の聖パウロのように落馬し、跪いて神の啓示を受けます。この出来事を機に、フベルトゥスはキリスト教に深く帰依し、アルデンヌの森に隠遁して模範的な信者としての人生を歩むことになります。彼は、狩猟者や猟犬の守護聖人として崇められています。

フベルトゥスの物語は、多くのフランドルの画家たちを魅了し、しばしば美しい風景を描くための絶好の題材として用いられました。本作では、ヤン・ブリューゲルが丹念に描き上げた美しい風景の中に、ルーベンスが聖フベルトゥスの人物像を配置しています。この共同制作は、二人の画家の友情の証であり、彼らは以前にも『花輪の聖母子』や『五感の寓意（連作）』などの作品で共同で制作を行っています。これらの作品もプラド美術館に所蔵されており、二人の巨匠の才能の融合を堪能することができます。

『聖フベルトゥスの幻視』は、聖人の改宗という宗教的なテーマを、バロック美術特有のダイナミックな構図と色彩で描き出した傑作です。ヤン・ブリューゲルの描く自然の豊かさと、ルーベンスの描く人物の力強さが調和し、見る者を魅了します。この作品は、宗教画としての価値はもちろんのこと、フランドル絵画の歴史においても重要な位置を占めています。

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