聖ペドロ・ノラスコに現れる聖ペテロ

『聖ペドロ・ノラスコに現れる聖ペテロ』は、スペインのバロック絵画の巨匠フランシスコ・デ・スルバランが1629年に制作した油彩作品です。この絵画は、聖ペドロ・ノラスコが、聖ペテロの啓示を受けるという神秘的な瞬間を描いています。本作は、元々22点の連作の一部であり、聖ペドロ・ノラスコの生涯を主題としていました。

作品の背景

本作は、13世紀にメルセダリオス・カルサードス会を設立した聖ペドロ・ノラスコを題材としています。メルセダリオス・カルサードス会は、レコンキスタ時代にイスラム教徒の捕虜となったキリスト教徒を救済したことで知られています。絵画は、メルセダリオス・カルサードス会のために制作され、ペドロ・ノラスコが列聖された年に委嘱されました。連作のうち、本作と対になる『聖ペドロ・ノラスコの幻視』を含む9点が現存しています。

描かれた情景

絵画には、ペドロ・ノラスコがローマへの巡礼を願い、夜間に祈りを捧げている場面が描かれています。その祈りの最中、殉教の際に逆さ磔にされた聖ペテロが、同じく逆さ吊りの姿で彼の前に現れます。聖ペテロは、ペドロ・ノラスコにスペインのキリスト教化を励まします。聖ペテロは、奥行きを消すオレンジ色の背景に現れ、床は壁に溶け込み、壁は天井と一体化しています。この非合理な空間に、幻視が非常に現実的に描かれています。

聖ペテロは、大きく見開いた目と、頭部に血液が下がるために飛び出さんばかりの様子で描かれています。対照的に、ペドロ・ノラスコは非常に冷静な様子で、両手を広げてはいるものの、白い修道服の下で静止しています。二人の聖人は、深い闇に包まれ、周囲の環境から切り離されています。時間と空間を超越した精神的な結合の中で、互いを凝視しています。

スルバランの作風

本作は、スルバランの初期の作品でありながら、神秘的な主題を現実的に描く作風、ペドロ・ノラスコの修道服に見られるような柔らかな質感の表現など、円熟期の画家の特徴が見られます。スルバランは、光と影を巧みに操り、聖ペテロの姿を劇的に描き出すことで、宗教的な幻視の神秘性と現実感を両立させています。

作品の来歴

この絵画は、1808年にセビーリャ大聖堂の司祭マヌエル・ロペス・セペロに購入され、1821年に彼のコレクションと共にフェルナンド7世に譲渡されました。現在は、マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

まとめ

『聖ペドロ・ノラスコに現れる聖ペテロ』は、スルバランの卓越した技術と宗教的なテーマへの深い理解を示す傑作です。聖ペテロの出現という神秘的な出来事を、現実的な描写によって描き出すことで、観る者に強烈な印象を与えます。

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