聖ヨセフの死 (ゴヤ)

『聖ヨセフの死』

フランシスコ・デ・ゴヤによる『聖ヨセフの死』は1787年に完成した祭壇画で、スペインのロマン主義を代表する作品です。この作品は、バリャドリードに位置するサン・ホアキン・イ・サンタ・アナ王立修道院のために制作され、聖ヨセフの最期の瞬間を美しく描いています。現存する同修道院にはこの祭壇画が保管されており、またミシガン州のフリント美術館にはその準備習作が所蔵されています。

制作の背景

サン・ホアキン・イ・サンタ・アナ王立修道院は1781年から1787年にかけて、イタリアの建築家フランシスコ・サバティーニによって新古典主義様式に改築されました。その際、サバティーニが国王カルロス3世に提案し、ゴヤと義兄ラモン・バイユーに祭壇画の制作が依頼されました。全6点の作品群からなるこの祭壇画群のうち、ゴヤが担当したのは聖ヨセフ、クレルヴォーの聖ベルナルドゥス、聖ルトガルディスをテーマにした作品です。具体的には『聖ヨセフの死』と『障害者を治すクレルヴォーの聖ベルナルドゥス』、そして『聖ルトガルディス』の3点です。

奉献式は1787年10月1日に行われましたが、当初は7月26日を予定していました。制作の遅れは、ゴヤとその義父や義兄弟とのいざこざに起因しているとされています。特に、ゴヤは他の装飾プロジェクトを手掛ける中でフランシスコ・バイユーと鋭い対立を繰り広げていました。この争いが作品制作に影響を及ぼした可能性があります。

作品の特徴

『聖ヨセフの死』では、聖母マリアとイエス・キリストが聖ヨセフの死を見守る象徴的な構図が展開されています。画面の奥には聖母マリアが立ち、聖ヨセフの遺体に寄り添いながら苦悩の表情を浮かべ、キリストに視線を送っています。前景には、目を閉じたキリストが両手を広げて、神に聖ヨセフのもとへ導くよう求める姿が描かれています。

この作品で特に際立つのは、光と影の対比であります。左上から差し込む神聖な光が、聖ヨセフ、聖母マリア、キリストを照らし、荘厳さを与えています。聖母マリアとキリストの頭上には光輪が輝き、神聖さを際立たせています。衣服の色彩—聖母の青、聖ヨセフの黄色、キリストの灰色、シーツの白—は互いに引き立て合い、死の悲しみを強調しているのです。

また、この作品の構成は巧妙で、キリストの姿勢から生じる垂直線、聖母の対角線、聖ヨセフの水平線が絡み合い、全体のバランスを保っています。衣服のひだは自然に流れ、形状に彫刻的な印象を与えることで、より深い造形感を生み出しています。

評価と影響

『聖ヨセフの死』はその芸術的価値について賛否が分かれています。多くの批評家は、ゴヤが感情を込めずに職人として描いた作品だと評価し、宗教的感情の欠如を指摘しました。しかし、美術史家のホセ・カモン・アスナールは、ゴヤが色彩や明暗法を用いて自身の宗教的情熱を表現していると主張し、その才能を高く評価しています。

これらの作品は、サン・ホアキン・イ・サンタ・アナ王立修道院に所蔵された後も展覧会で数回展示されています。1961年や1996年には特に注目されたイベントで出展され、多くの観客にその魅力を伝えました。作品の多面的な解釈は、今なお美術愛好家にとって興味深いテーマとなっています。ゴヤの描く人物たちの感情は、彼自身の内面的な思考や関心を浮き彫りにするものであり、聖ヨセフの死に対する味わい深い考察をもたらしています。

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