聖リヴィヌスの殉教

「聖リヴィヌスの殉教」は、バロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンスと彼の工房によって1633年頃に制作された油彩画です。この作品は、ベルギーのヘントにあるイエズス会教会の主祭壇画として依頼されました。しかし、18世紀末にイエズス会が解散した際、この絵画はフランスのルイ16世によって買い取られました。その後、1802年にベルギーに返還され、現在はブリュッセルのベルギー王立美術館に所蔵されています。

この絵画の主題は、7世紀に実在したとされるスコットランド人修道士であり、ヘントの司教でもあった聖リヴィヌスの殉教です。伝説によれば、リヴィヌスは異教徒に襲われ、舌を抜かれるという残虐な方法で殉教したとされています。しかし、その直後、リヴィヌスを迫害した者たちは、天から降った神の怒りの火によって跡形もなく滅ぼされたと伝えられています。

ルーベンスは、リヴィヌスの殉教から1000年目に当たる1633年に、この絵画の制作を依頼されたと考えられています。当時、リヴィヌスが殉教したとされる年が改められ、ヘントにおけるキリスト教信者共同体の設立における彼の模範的な行動が、イエズス会教会で称えられました。これは、イエズス会が、真の信仰を歴史的な根拠に基づかせようとした、対抗宗教改革の意図を反映したものです。イエズス会の創設者であるイグナチオ・デ・ロヨラは、プロテスタントに対抗し、殉教者の英雄性を強く擁護しました。

1630年代のルーベンスは、牧歌的な主題だけでなく、これまでになく凄惨で暴力的な場面を描くようになりました。この作品でも、見る者は恐ろしい出来事を詳細に提示されます。絵画の左前景には、司教冠と司教杖を手放したリヴィヌスが描かれ、拷問者の口には血に染まったナイフが、別の拷問者はリヴィヌスの髭をつかみ、さらに別の拷問者は聖人の舌をトングで差し出しています。周囲では犬が激しく吠え、その場面の凄惨さを強調しています。しかし、それだけではありません。天からは、殉教への報奨と、処刑者たちの誤った行動への報いが与えられています。二人のプットがリヴィヌスに殉教の棕櫚を差し出し、天使たちが雷と共に恐怖にかられた兵士たちを四散させ、馬を逃亡させている様子が描かれています。

ルーベンスは、激しい身振り、筆致の律動、ゆらめく光、巧みな色彩構成によって、画面に最高度の動きの感覚を与えています。この作品は、彼の優れた画力が遺憾なく発揮された、バロック絵画の傑作と言えるでしょう。

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