異教徒

異教徒とは

異教徒とは、ある宗教を信仰する者が、自身の宗教とは異なる宗教を信じる人々を指す言葉です。この言葉は、歴史的、宗教的、文化的な背景の中で多様な意味合いを持ち、時には対立や差別を生む原因ともなってきました。

各宗教における異教徒の概念

ユダヤ教

ユダヤ教では、選民であるユダヤ人と、それ以外の異邦人を区別します。異邦人の中でも、ユダヤ教への改宗を望まず、ノアの七つの法則に従う人々を「ゲル・トシャフ」と呼びます。彼らは共同体からの法的保護と特権を受け、一定の条件のもとでユダヤ人と共に生活することが認められています。また、ゲル・トシャフは「正義の異邦人」とも呼ばれ、来るべき世界での地位が保証されています。ユダヤ教への完全な改宗者である「ゲル・ツェデク」は、メシアの時代に現れるとされています。

キリスト教

キリスト教においては、異教徒はキリスト教を信仰しない人々を指します。しかし、聖書の中では、異教徒にも良心が備わっており、神の律法を心に刻んでいる可能性があると説かれています。また、神は国籍や民族に関わらず、神を畏れ、善き行いをする者を受け入れるとされています。さらに、神による審判は宗教への所属ではなく、一人ひとりの他者への思いやりによって判断されるとされています。キリスト教では、イエス・キリストを信じる者は神の民、クリスチャンとみなされます。

初期のキリスト教神学者の中には、徳の高い異教徒が救済される可能性を排除しなかった者もいます。また、ロゴスに触発された異教徒は、たとえ非有神論的な哲学を信奉していても、キリスト教徒であると主張する者もいました。

しかし、ジャン・カルヴァンは、聖書は異教徒の神々に対立するものとして真の神のみを認めていると述べ、福音派においては、十字架の福音は人をクリスチャンとノンクリスチャンの二つに分け、異教徒はノンクリスチャンと同義であると解釈されます。改革派教会の神学では「罪のない異教徒」という概念は否定されます。現代においても、日本の天皇の祭祀を異教の儀式とする見解があり、カトリック教会とプロテスタント教会から反対声明が出されています。

イスラム教

イスラム教では、初期の段階からユダヤ教徒やキリスト教徒を、同じ神を信仰する「啓典の民」として認めています。彼らは「ズィンミー」として、ジズヤという税を支払う代わりに、生命や財産の安全が保障されていました。ただし、権利義務の内容は時代や地域によって異なり、ムスリム（イスラム教徒）と同等の地位を与えられていたわけではありません。

神道

神道では、仏教の伝来当初、他の宗教を「蕃神」として排斥しようとする動きがありました。しかし、仏教が徐々に受け入れられるようになり、後に仏教を国教とした徳川幕府では、キリスト教徒を異教・邪教として弾圧しました。

太平洋戦争中には、「八紘一宇」のスローガンの下、日本が全世界を一つにすると解釈され、ムスリムにメッカではなく東京に礼拝するよう命令するなどの行為が行われました。

仏教

仏教では、仏教以外の宗派の教説を「外道」と呼び、異端として扱います。外道は、異教、悪魔、邪道などの意味で用いられ、人を罵る言葉としても使われてきました。鎌倉時代には、日蓮が『立正安国論』で、法華経を信仰しない他の宗派を邪法として非難しました。また、スリランカの歴史を記した『マハーワンサ』では、仏教を守るために非仏教徒への非人道的行為を正当化する記述が見られます。

現代においても、仏教の観点から、他の宗教を批判する考え方が存在します。仏教に帰依した徳川幕府は、キリスト教を異教・邪教として弾圧し、処刑を正当化しました。

道教

道教に傾倒した唐の武宗は、道士の提言に基づき、仏教の寺院を廃止し、財産を没収、僧侶を還俗させるなどの弾圧を行いました。

儒教

儒教では、仏教を夷狄（野蛮人）の宗教として排斥しようとする動きがありました。中国の儒者は、華夏文化による一方的な教化の対象であるとして、仏教を否定しました。三武一宗の法難と呼ばれる仏教弾圧においても、儒教の倫理観が用いられました。

ラテン語における異教徒

異教徒の語源であるラテン語のpaganusは、元々はユダヤ教を含まず、ギリシア・ローマ的な偶像崇拝や多神教徒を指す言葉でした。キリスト教が広まるにつれて、単純に「キリスト教以外」を意味する言葉として使われるようになりました。

まとめ

「異教徒」という言葉は、その宗教的、歴史的背景によって、さまざまな意味合いを持ちます。異なる宗教を信仰する人々を指す言葉としてだけでなく、時には、他者を排除したり、差別や対立を生む原因となったりすることもあります。異教徒という言葉の持つ意味を理解し、それぞれの宗教や文化を尊重することが大切です。

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