聖母のエリザベト訪問 (ラファエロ)

ラファエロ・サンツィオの『聖母のエリザベト訪問』

『聖母のエリザベト訪問』（せいぼのエリザベトほうもん、伊: Visitazione, 英: Visitation）は、盛期ルネサンスの著名な画家ラファエロ・サンツィオにより1517年頃に制作された絵画です。この作品は、聖母マリアが聖エリザベトを訪れる場面を取り上げています。この主題は、『新約聖書』の「ルカによる福音書」1章に基づいており、聖母マリアの訪問という重要な出来事が描かれています。

この作品は、教皇の侍従でありラファエロの友人であったジョバンニ・バティスタ・ブランコニオからの依頼によって制作されました。彼の家族はアブルッツォ州アクゥーイラにあるサン・シルヴェストロ教会に礼拝堂を持っており、そのためにこの絵が描かれました。現在はマドリードのプラド美術館に収蔵されています。

主題解説

この絵の背景には、ヘロデ大王の時代の物語があります。ザカリアという祭司はアロン家の娘エリサベトと結婚しましたが、エリザベトは不妊であり、二人は年老いても子供を持つことができませんでした。そんなある日、ザカリアが神殿で香を焚いていると、天使ガブリエルが現れ、エリザベトが男子を産むという予告をします。その子にはヨハネという名をつけるようにと告げます。

エリザベトが身ごもったニュースを受け、ガブリエルはナザレに住む聖母マリアのもとへも訪れ、彼女が男子イエスを産むことを告げます。その後、マリアは急いでザカリアの家を訪れてエリザベトに会い、彼女の声を聞いたエリザベトの子供が胎内で歓喜する場面が描かれています。マリアのその時の言葉は「マニフィカト」として知られ、キリスト教の聖歌にもなっています。

作品の特徴

ラファエロは、聖母マリアが聖エリザベトを訪れる様子を描き出しており、二人の妊婦としての姿が表現されています。画面の右側には若い聖母マリアが描かれ、彼女の大きくなった腹部に手を当てています。一方、左側には老年の聖エリザベトが描かれ、その外見の違いによって彼女の妊娠の奇跡が強調されています。

さらに、画面の遠景には未来を暗示するモチーフが描かれています。聖ヨハネがヨルダン川でイエスに洗礼を授けている様子や、上空から父なる神がその光景を祝福している場面が見受けられます。これらの要素は、絵画に昇華された宗教的なメッセージを持たせています。

来歴

『聖母のエリザベト訪問』は、1520年4月2日までにサン・シルヴェストロ教会に設置されましたが、1655年、絵画はラウリート公爵を通じてスペイン国王フェリペ4世に売却されることになります。この過程で教会側は絵の撤去に対抗し、教会を閉鎖したものの、最終的に教会の壁が破壊され、作品は運び出されエル・エスコリアル修道院へと移されました。

1813年にはナポレオンの影響下にあるジョゼフ・ボナパルトによってパリに持ち去られ、1837年にプラド美術館に収蔵されました。その際、絵の支持体が板からキャンバスに変更されるなど、数度の修復を経ていますが、全体的な保存状態は良好です。

現在、サン・シルヴェストロ教会には、ジュリオ・チェーザレ・ベデスキーニによって制作された複製が設置されています。これは、ブランコニオ家の歴史を反映する重要な文化財として位置付けられています。

この素晴らしい作品は、ラファエロの芸術における宗教的なテーマ表現の重要性を物語り、また当時の信仰と社会の関係に思いを馳せさせるものとなっています。

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