聖母のエリザベト訪問 (ルーベンス)

『聖母のエリザベト訪問』について

ピーテル・パウル・ルーベンスによって1611年から1615年に制作された油彩画『聖母のエリザベト訪問』は、聖書「ルカによる福音書」に記された、マリアが親戚のエリザベトを訪問する場面を描いています。この作品は、フランドル・バロック絵画の巨匠ルーベンスの、初期の重要な作品の一つとして知られています。

作品の主題と構成

絵画の主題は、天使からイエス・キリストの懐妊を告げられたマリアが、同じく身ごもっていた親戚のエリザベトを訪問する場面です。エリザベトは、青い衣服を身につけ、長い間不妊であったにもかかわらず、洗礼者ヨハネを身ごもっていました。彼女は家の玄関先でマリアを迎え、二人は互いに右手を握り合っています。二人の背後には、聖ヨセフとザカリアが描かれ、彼らは互いに見つめ合っています。また、マリアの背後、画面左端には荷物を頭に載せたマリアの侍女が描かれています。

作品の来歴と研究

この絵画は、1890年にロンドンで購入され、以来ストラスブール美術館に所蔵されています。作品が最初に記録されたのは1840年で、ガーン城のジョン・ダグラスの所有物でした。それ以前の来歴については、1758年5月22日にマーティン・ロビンズのコレクションとして売却されたと推測されています。

かつて、『聖母のエリザベト訪問』はルーベンスの代表作である『キリスト降架』の左翼パネルの最初の習作と考えられていましたが、現在では否定されています。実際には、その習作はロンドンのコートールド美術館に所蔵されています。しかし、美術史家マティアス・ディアス・パドロンの研究により、ストラスブール美術館の作品は、別の個人蔵の三連祭壇画のために制作されたことが示唆されています。この研究に基づき、作品の制作年は従来の1611年から1612年ではなく、1614年から1615年であると修正される可能性があります。ただし、ルーヴル美術館の研究者であるジャック・フカールは、個人蔵の三連祭壇画は、失われたルーベンスの原画の複製であると考えています。

作品の特徴と影響

ストラスブール美術館所蔵の本作は、アンニーバレ・カラッチやパオロ・ヴェロネーゼからの影響が見られます。これは、当時のルーベンスの多くの作品にも共通する特徴です。また、本作のための習作（紙上にインク、縦26.5センチ、横36センチ）がバイヨンヌのボナ美術館に所蔵されています。

まとめ

『聖母のエリザベト訪問』は、ルーベンスの初期の作品でありながら、その卓越した技術と深い宗教的感情が込められた作品です。その来歴や制作過程については、現在も研究が進められており、ルーベンスの芸術に対する理解を深める上で重要な作品と言えるでしょう。

参考文献
『ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行

外部リンク
La Visitation, presentation of the painting on the museum's website(アーカイブ版)

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