聖母子 (アルテミジア・ジェンティレスキ)

アルテミジア・ジェンティレスキ作「聖母子」

アルテミジア・ジェンティレスキが1610年頃に制作した油彩画「聖母子」は、聖母マリアと幼いイエス・キリストの親密な瞬間を捉えた作品です。この作品は、ローマのスパーダ美術館に所蔵されており、同じくジェンティレスキ作とされる「聖チェチリア」と共に展示されています。

作品の特徴

この絵画では、ピンク色のドレスを身に着けた聖母マリアが、白い木製の椅子に腰掛け、幼いイエスに授乳しています。しかし、彼女は授乳中に眠りに落ちてしまい、頭はわずかに傾き、まぶたは半分閉じています。それを見た幼いキリストは、母親に注意を向けながら、小さな左手を伸ばして彼女の頬にそっと触れ、目覚めさせようとしています。この親密な描写は、アルテミジアの独創的な才能を示すものです。

1837年に制作されたエングレーヴィングは、当時の衣服の配置が現在見られるものよりも複雑だったことを示唆しています。1969年から1970年にかけて行われた修復作業によって、後代の大幅な修正や上塗りが除去され、深い栗色の陰影を持つピンクのドレスと青いマントが明らかになりました。これにより、アルテミジアが元々描いた色彩が蘇りました。

作品の帰属

この絵画は、長らく他のイタリア人画家の作品とされていましたが、1992年の記録文書の調査によって、17世紀にこの絵画を所有していたアレッサンドロ・ビッフィの1637年の目録記録が発見され、アルテミジア・ジェンティレスキの作品として帰属が確定しました。この帰属問題は、ピッティ宮殿にも同サイズの「聖母子」が存在していたために複雑化しました。しかし、スパーダ美術館のバージョンの方が「より確実である」と判断されました。研究者たちは、ピッティ宮殿のバージョンの方が従来は美しく評価されていたため、聖母の描写からアルテミジアの作品はピッティ宮殿のバージョンであると信じていました。しかし、1954年にフェデリコ・ゼーリによってピッティ宮殿のバージョンはジョヴァンニ・フランチェスコ・グエッリエリの作品とされ、この説は1958年にアンドレア・エミリアーニによって受け入れられました。

作品の来歴

1992年に発見された記録文書によれば、17世紀にこの作品を所有していたのはアレッサンドロ・ビッフィでした。ビッフィは、ヴェラーリ家の近くに住居を借りていましたが、家賃を滞納した際に財産の一部を譲渡することによって負債を返済しました。ビッフィが所有していた作品は、1637年の彼の目録に記録されており、ビッフィの死後、ヴェラーリ家に遺贈されました。その後、この絵画はヴェラーリ家の相続人であるジュリア・ヴェラーリが1643年頃に死去した後、彼女の唯一の姉妹であり、1636年にオラツィオ・スパーダと結婚したカステル・ヴィスカルド侯爵夫人マリア・ヴェラーリを通してスパーダ家のコレクションに入ったと考えられています。

ギャラリー

(画像は省略します)

脚注

（省略）

参考文献

Christiansen, Keith, and Judith W. Mann, Orazio and Artemisia Gentileschi. Metropolitan Museum of Art, 2001.
Bissell, R. Ward (1999). Artemisia Gentileschi and the Authority of Art. The Pennsylvania State University Press
Garrard, Mary D. (2001). Artemisia Gentileschi around 1622: The Shaping and Reshaping of an Artistic Identity. The University of California Press
Whitlum-Cooper, Francesca (2020). Treves, Letizia. ed. Artemisia. London: The National Gallery Company Ltd.

外部リンク

* イタリア文化省 - スパーダ美術館公式サイト, ジェンティレスキ『聖母子』

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