聖母子と二人の奏楽天使

聖母子と二人の奏楽天使

『聖母子と二人の奏楽天使』（せいぼしとふたりのそうがくてんし、伊: Madonna col Bambino tra due angeli musicanti, 英: Madonna with child and two angel musicians）は、ルネサンス期のイタリア人画家コレッジョが1515年頃に制作した油彩画です。現存するコレッジョの作品の中で最も小さいサイズであり、その歴史の中で様々な変遷をたどってきました。

作品の特徴

この絵画では、聖母マリアが幼いイエス・キリストを抱き、穏やかな眼差しで見つめています。マリアの首元には薄く透き通ったヴェールがかけられ、聖母子の両側には、それぞれ異なる楽器を奏でる二人の天使が描かれています。画面左側の天使はリュートを、右側の天使はヴァイオリンを演奏しており、特に右側の天使はキリストの方へ顔を向け、キリストもまた天使の演奏に耳を傾けている様子が描かれています。

画面下部には柔らかな雲が広がり、上部には雲状のケルビムが聖母子の輝きによって照らされている様子が描かれています。

右側の天使は、ジョルジョーネやティツィアーノの作品を想起させるとも指摘されています。しかし、この作品には、構図の調和、甘美な色彩、そして初期のジョルジョーネ的画風からの脱却といった、コレッジョ独自のスタイルが表れています。

制作年代

美術史家たちは、この作品の制作年代について様々な見解を示しています。当初、1510年から1512年の初期作品と見なされていましたが、後の研究では1513年から1514年の作品よりも後の1515年から1516年頃に制作されたとする説が有力です。この年代特定は、コレッジョの画風の変遷を理解する上で重要な手がかりとなります。

来歴

この絵画の記録は1650年のメディチ家の目録に初めて登場します。当時はティツィアーノの作品とされ、模写のために工房に置かれていたと記されています。その後、1675年の財産目録では作者不明とされましたが、17世紀後半にはピッティ宮殿に所蔵されていました。

17世紀末には、アンナ・マリーア・ルイーザ・デ・メディチが結婚の際に、他の貴重品と共にデュッセルドルフに持ち込んだ可能性が指摘されています。その後、フィレンツェに戻り、1708年にはティツィアーノの作品としてウフィツィ美術館に移管されました。

1877年、カヴァルカセッレによってロンバルディア派の作品とされ、1886年にはジョヴァンニ・モレッリによってコレッジョの作品と再鑑定されました。この再評価は、美術史におけるコレッジョの地位を確立する上で大きな転換点となりました。

修復

2000年には、マリオ・チェレジアによる修復が行われました。この修復によって、画面下の雲をはじめとする鮮やかな色彩が蘇り、聖母と天使の顔を覆っていた虫食いの穴や古い加筆が除去されました。修復により、作品本来の美しさが再び輝きを取り戻しました。

現在

現在、この作品はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されており、コレッジョの初期の傑作の一つとして、多くの人々に鑑賞されています。

まとめ

『聖母子と二人の奏楽天使』は、コレッジョの初期の画風と、その後の発展を理解する上で重要な作品です。その繊細な筆致、調和のとれた構図、そして神秘的な雰囲気は、観る者を魅了し、ルネサンス美術の奥深さを伝えます。美術史上の変遷と修復を経て、現在もその美しさを保ち続けているこの作品は、まさに芸術の至宝と言えるでしょう。

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