聖母子と天使 (ボッティチェッリ、ボストン)

『聖母子と天使』：ボッティチェッリによる聖なる情景

サンドロ・ボッティチェッリによって1470年頃に制作された板上のテンペラ画『聖母子と天使』（または『聖体の聖母』）は、宗教的なテーマを繊細かつ象徴的に表現した作品です。現在、この作品はマサチューセッツ州ボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に所蔵されています。

作品の構成と象徴

この絵画では、聖母マリアが幼子イエスを膝に抱き、4分の3正面向きで描かれています。マリアは静かで穏やかな表情をたたえ、母親としての優しさを感じさせます。その傍らには、ギンバイカの冠をかぶった笑顔の天使が、12個の小麦とブドウの穂が入ったボウルを差し出しています。これは、キリスト教における聖体のパンとワインを象徴しており、受肉したイエスの身体と血を意味します。幼子イエスは祝祷のポーズで手を挙げており、マリアはトウモロコシの一本を握っています。このトウモロコシの数は、最後の晩餐における使徒の数を表している可能性があります。

背景には、壁に囲まれた庭園、または閉ざされた園（hortus conclusus）が描かれています。この庭園は、マリアの処女性を象徴しており、壁の開口部からは、丘と川が広がる穏やかな風景が見えます。この風景は、聖なる空間と自然の美しさを結びつけ、作品全体の調和を生み出しています。

制作背景と影響

本作は、1465年から1470年にかけて制作されたボッティチェッリによる一連の聖母子像の一つであり、特に1465年頃にフィリッポ・リッピが描いた『聖母子と二人の天使』の影響を受けていると考えられています。ボッティチェッリは、この作品を通じて、ルネサンス期のフィレンツェにおける美術の潮流を汲みながら、独自の芸術性を開花させました。

購入の経緯と物議

この絵画は、1899年にキージ家の王子からイザベラ・スチュワート・ガードナーに売却されました。当初、キージ王子は30,000ドルで売却を申し出ましたが、最終的に70,000ドルで購入が決定しました。この売却はイタリア国内で物議を醸し、売却が違法であるとの報道がなされ、キージ王子は罰金を科せられる事態となりました。絵画は、ボストンに輸送される前にロンドンのコルナギで展示され、多くの人々の目に触れることになりました。

結び

『聖母子と天使』は、ボッティチェッリの才能を示すだけでなく、宗教的なテーマを芸術的に表現した重要な作品です。その美しい構図と象徴的な意味合いは、観る者に深い感動を与え、歴史的な背景とともに、今日まで多くの人々を魅了し続けています。

美術館のウェブサイト

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