聖母子と5人の聖人

『聖母子と５人の聖人』（伊:Madonna col Bambino, sant'Anna e quattro santi）は、イタリアのマニエリスムを代表する画家、ポントルモによって描かれた油彩画です。この作品は、現在パリのルーヴル美術館に所蔵されており、その芸術的な価値と歴史的背景から、多くの美術愛好家や研究者の注目を集めています。

制作年代については、美術史家の間で議論が続いていますが、ジョルジョ・ヴァザーリの記述に基づき、ポントルモがカッポーニ礼拝堂の作品を手がけた直後の1528年から1529年の間に制作されたとする説があります。しかし、近年の研究では、1524年から1526年の間に描かれたポントルモの作品との様式の類似性から、より早い時期の制作である可能性も指摘されています。

この作品は、フィレンツェのサン・フレディアーノ門外にあったサンタンナ修道院のために制作されました。画面の中央には聖母マリアが幼子イエスを抱き、その右側には聖アンナが描かれています。聖アンナは聖母マリアの母親であり、作品の主題としても重要な役割を果たしています。その他の聖人たちは、左から聖アンデレ（緑の衣服）、聖ペテロ（赤と青の衣服）、半裸体の聖セバスティアヌス（または聖ディスマス）、そして修道士の姿をしたヌルシアの聖ベネディクトゥスが描かれています。これらの聖人たちは、それぞれが持つ象徴的な意味や、修道院の歴史と関連付けられています。

特に注目すべきは、聖母の足元に描かれたメダリオンです。このメダリオンには、行列に参加する人々が描かれており、歩兵隊長、会社社長、トランペット奏者、バグパイプ奏者、業者、「司令官」、「議会議員」など、当時の社会階層や職業を反映する人物が描かれています。これは、作品の依頼者が、フィレンツェの解放を記念する聖アンナの祝祭日の行進に関わっていたことを示唆しています。この行進は、1343年の圧制者ゴーティエ・ド・ブリアンヌからのフィレンツェの解放を記念するもので、修道院は1370年までこの行進の目的地でした。

作品が描かれたサンタンナ修道院は、1529年のフィレンツェ包囲戦中に破壊されてしまいました。そのため、『聖母子と５人の聖人』が修道院に飾られたのは、再建された1535年以降のことです。その後、1813年までに作品はフィレンツェのサンテウセビオ・アル・プラート病院に移されましたが、ナポレオンによる略奪によってパリへと運ばれてしまいます。そして、1814年にルーヴル美術館で最初に展示されました。ナポレオン戦争の終結後もフィレンツェに返還されることはなく、現在に至るまでルーヴル美術館のコレクションの一部として展示されています。

『聖母子と５人の聖人』は、ポントルモの卓越した画力と、当時の社会状況を反映した複雑な象徴性が融合した傑作であり、マニエリスム美術を理解する上で重要な作品の一つと言えるでしょう。

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