聖職の碑

聖職の碑

『聖職の碑』（せいしょくのいしぶみ）は、新田次郎による山岳小説であり、山岳遭難事故を主題にした作品です。この小説は、1913年に発生した実際の木曽駒ヶ岳での遭難事故にインスパイアされており、師弟愛や生きる意味について深く掘り下げています。また、この物語は後に映画化され、1978年には鶴田浩二が主演を務めることになりました。

あらすじ

時は大正時代、長野県に位置する中箕輪高等小学校では、教育方針を巡る対立が生じていました。校長の赤羽長重は実践主義を貫く一方で、白樺派と称される教育方針に対抗する教師たちとの間で緊張が高まっていました。しかし赤羽は、その困難を乗り越え、生徒たちに信念を持って教育を施し続けていました。

1913年8月26日、赤羽は生徒25名、地元の青年会9名、引率教師3名と共に木曽駒ヶ岳の集団登山に挑むことを決定しました。この登山行事は既に数年にわたって実施されていたため、周到な計画が立てられ、当時の気象情報も綿密にチェックされていました。しかしながら、予算の都合により、地元ガイドを雇うことができず、その判断が不幸の始まりとなりました。

登山当日はあいにくの天候でしたが、赤羽とその一行は山頂にある伊那小屋を目指して進みます。途中、暴風雨に見舞われながらも、なんとか小屋にたどり着きますが、そこで彼らを待っていたのは、半壊状態の小屋と、不運にも失火によって無残な姿に変えられた避難所でした。赤羽は周囲のハイマツを集め、雨合羽を使って仮の避難所を作り、生徒たちを守ろうと奮闘します。

しかし自然の脅威は彼らに容赦しませんでした。漏水があって火も焚けず、身心ともに疲弊していく生徒たちが続々と倒れ、パニックが蔓延していきます。この過程で、青年会員の一部が教師の指導から逸脱し、分散的に下山を始めるという事態が発生しました。この判断が生徒たちにさらなる危険をもたらし、赤羽はやむを得ず生徒たちの安全を確保するために共に下山せざるを得ませんでした。

結果、数名の者が樹林帯に逃れることに成功した一方、稜線上で力尽きた者たちの中には、赤羽が生徒に防寒シャツを分け与えようとして力尽くした姿もありました。この事故で失われた命は合計11名に上り、上伊那郡教育会はその場所に「遭難記念碑」を建立しました。この碑は、教訓として人々に事故を忘れないことを促す役割を果たしています。

現在も、この事件は箕輪中学校をはじめとする地域の中学校の伝統行事として続いており、その登山には慰霊の意味も込められています。

映画化

1978年には、その深いテーマ性と感動的なストーリーが評価されて、鶴田浩二主演で映画化されました。この映画は、原作者新田次郎が手掛けた『八甲田山』の成功を受けて公開され、当時のデザスター映画の流れに沿った作品でしたが、残念ながら、興行成績は期待を大きく下回る結果となりました。

結語

『聖職の碑』は、登山という極限状況下で試される愛と友情、そして生きる意味が問いかけられる作品として現代にも多くの人々に語り継がれています。原作に付随する詳細な調査と取材記は、作品の背景に迫る貴重な資料であり、ジャンルを超えた人間ドラマの一端を感じさせます。

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