肴町 (浜松市)

浜松市中央区 肴町（さかなまち）

浜松市中央区に位置する肴町は、JR浜松駅の北口周辺に広がる、市を代表する繁華街の一角を占める町です。この地域は丁番を持たない単独町名として扱われており、現在の行政区分において住居表示は実施されていません。賑やかな中心市街地にありながら、かつて魚市場として栄えた歴史を持つ、その名の由来に深い背景を持つ地域です。

肴町という地名は、その名の通り、かつてこの地で魚を商う店が多く集まっていたことに由来します。江戸時代、徳川家康が浜松城主であった頃にその歴史は始まりました。

文献「浜松御役町由来記」が伝えるところによれば、事の発端は浜松城の南側、現在の紺屋町通りにあたる榎門筋で、六人の魚商が魚の販売を始め、城の御用も務めるようになったことでした。彼らの商売の利便性を図るため、家康の家臣であった本多重次らが中心となり、浜松城の大手門に近い東海道の裏通り、現在の本通りや肴町通り沿いに新たな魚河岸が設置されることになります。これが、魚屋のみが集まる町、すなわち肴町の始まりとされています。この時、家康はこれら六人の魚商に対し、遠州灘沿岸の主要な水揚げ港である舞坂湊（現在の舞阪漁港）と掛塚湊の間で獲れる魚介類すべてを売買できるという、特別な商業特権を与えたと伝えられています。

この新たな魚河岸の設置に伴い、それまで「魚町」と呼ばれていた旅籠町裏の地域から、魚商たちがこの地へ集団で移転してきました。結果として、かつて魚町であった場所は、区別するために「元魚町」と呼ばれるようになったのです。このように、肴町は徳川家康の城下町政策の一環として、浜松の魚市場の中心地として意図的に形成された歴史を持つ地域と言えます。

時代は下り、現在の肴町は浜松市の主要な繁華街へと姿を変えています。多くの飲食店や様々な種類の洋服店などが軒を連ね、昼夜を問わず多くの人々で賑わいを見せています。かつての魚河岸としての面影は、残念ながら現在では特定の史跡などにわずかに残る程度となり、町並みからはその歴史を直接的に感じ取ることは難しくなっていますが、町名にはしっかりとその由来が刻まれています。

地域に根ざした文化活動も活発です。特に、浜松を代表する祭りである浜松まつりには、明治時代から参加していた記録が残されています。「魚組（うおぐみ）」という参加名を持ち、その凧印は、元魚町にある松尾神社に由来するとされる「日鶴（ひづる）」を用いています。まつりで曳き回される屋台、通称「御殿屋台」は、昭和28年（1953年）に再建されたものを使用しています。肴町には比較的狭い通りが多いことから、屋台の規模は他町に比べてやや小ぶりな傾向がありますが、その精巧な造りや見事な彫刻の美しさは、他の町の屋台にも決して引けを取るものではありません。また、浜松まつり以外にも、町内の氏社である松尾神社の例祭（6月）や、商売繁盛を願う酉の市大祭（11月）など、地域に根ざした祭事が行われ、町の活性化に一役買っています。

肴町の地域に関する基礎情報として、例えば2018年（平成30年）12月1日時点の世帯数と人口に関するデータが記録されています。また、市立小・中学校へ通学する場合の学区が明確に定められています。郵便番号は430-0932で、地域の集配業務は浜松郵便局が担っています。警察による管轄も定められています。さらに詳しい情報を得るための外部リンクとして「肴町ネット」などが存在し、日本の他地域に存在する同名の町と区別される文脈で「肴町」という項目が挙げられることもあります。

このように、肴町は江戸時代初期に魚河岸として誕生した歴史を持ちながら、現代においては浜松市の中心的な繁華街として発展を遂げた町です。歴史的な由来を町名に留めつつ、祭りなどを通じて地域の文化を継承し、多様な商業活動によって活気あふれる現在の姿を形作っています。それは、古き良き伝統と現代の都市機能が見事に融合した、浜松らしい魅力を持つ地域と言えるでしょう。

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