本多重次

本多重次：家康に仕えた鬼作左衛門の生涯と業績

本多重次（ほんだ しげつぐ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将であり、徳川家康に仕えた重臣です。通称は作左衛門（さくざえもん）。その剛毅な性格から「鬼作左（おにさくざ）」という異名でも知られています。

生い立ちと家康への仕え

享禄2年（1529年）、本多重正の子として誕生した重次は、若き日から武勇に優れ、永禄元年（1558年）の家康の寺部城初陣にも参加し、その功績を挙げました。一向宗の乱にも参戦するなど、数々の戦場で活躍しました。

重次の真価が遺憾なく発揮されたのは、家康に仕えてからのことです。天野康景、高力清長と共に、三河三奉行の一人として行政面で手腕を発揮しました。奉行としての重次は、不正を嫌い、公平な判断で知られ、その迅速で明快な処理は、周囲の人々を驚かせました。

甲州征伐後の天正10年（1582年）には駿河国奉行に任命され、さらに天正13年（1585年）には、石川数正の辞任に伴い岡崎城代に就任。100騎を率いる重臣となりました。

武将としての活躍

重次は行政手腕だけでなく、武将としても優れた能力を持っていました。小田原征伐では、自ら勧誘した向井正綱と共に北条水軍を撃破するなど、戦功も挙げています。

晩年と蟄居

小田原征伐後、家康が関東に移封すると、重次は豊臣秀吉の意向を受けた家康によって、上総国古井戸（現在の千葉県君津市）に3000石で蟄居を命じられました。その後、蟄居地は下総国相馬郡井野（現在の茨城県取手市）に移されました。文禄5年（1596年）、68歳で死去しました。

家康への忠義と逸話

重次は家康に対して深い忠誠を誓っており、数々の逸話が残されています。家康の次男・結城秀康の誕生に関わったエピソードは有名です。秀康の母・於万は、家康の正室・築山殿の女中でしたが、家康との間に秀康を身ごもりました。家康は築山殿の怒りを恐れて、於万を重次に預け、秀康は重次に匿われていた中村家で誕生したのです。

また、天正13年（1585年）、家康が重病になった際、治療を拒む家康に業を煮やした重次は、自らの切腹を覚悟するほどでした。重次の忠誠心は家康を動かし、治療を受けることを決意させたと言われています。

鬼作左の異名と人となり

「鬼作左」の異名は、その剛毅な性格と家康への遠慮のない諫言に由来します。三方ヶ原の戦いでは、敵陣に囲まれながらも生還した逸話も残されています。しかし、新井白石は重次を「恐ろしげに見え、言いたい放題を言い、思慮のあるようではない」と評しながらも、「心正しく、しかも民を用いるのに配慮があり、訴訟をよく聞き事を明らかにした」と、その優れた行政手腕を高く評価しています。領民への法令の掲示は、難しい言葉を使わず、ひらがなで大きく書き、最後には「右に背くと、作左が叱る」と記したという逸話も残っています。

身体的特徴

重次は片目を失い、片足や手指にも障害があったと伝えられています。

蟄居の理由

重次の蟄居の理由は、豊臣秀吉への対応にありました。秀吉の怒りを買った出来事がいくつかあったとされています。例えば、人質となっていた息子の仙千代（後の本多成重）を、嘘をついて呼び戻したことや、家康の上洛に際して、秀吉の生母・大政所の宿舎に備え付けの薪を大量に用意したこと、小田原攻めの際に秀吉との面会を拒否したことなどが挙げられます。

「一筆啓上」

「一筆啓上　火の用心　お仙泣かすな　馬肥やせ」は、重次が長篠の戦いの陣中から妻に宛てた手紙として有名です。短い文面の中に、妻子への愛情と家臣としての責任感が感じられます。この手紙は、重次の厳格な外見とは異なる、繊細な一面を垣間見せるものです。しかし、息子の仙千代と甥を人質として差し出した秀吉への対応が、秀吉の怒りを買い、家康による蟄居命令に繋がったとされています。

死後

重次の菩提寺は茨城県取手市にある本願寺です。同寺には重次の兜や具足などが保存されています。墓所は寺の北西約1キロメートルの場所にあり、「本多重次墳墓」として茨城県指定史跡となっています。

まとめ

本多重次は、武勇と優れた行政手腕を兼ね備えた武将でした。家康への忠誠心は深く、その剛毅な性格と、時として大胆な行動は、時に周囲を驚かせ、また時に秀吉の怒りを買いました。しかし、その裏には、領民への深い愛情と、家族を思う優しい心があったことが、様々な史料や逸話からうかがえます。彼の生涯は、戦国時代の激動期を生き抜いた、複雑で魅力的な人物像を私たちに示しています。

もう一度検索