背の眼

『背の眼』：闇に潜む恐怖と真実を追うミステリー

道尾秀介氏によるホラー小説『背の眼』は、作家を目指していた氏が10年目に書き上げた初の長編作品であり、第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞したデビュー作です。本作は「真備シリーズ」の1作目としても知られています。2008年には小池ノクト氏によって漫画化され、『コミックバーズ』（幻冬舎）で連載、2012年にはテレビドラマ化もされました。

あらすじ

物語は、作家である道尾秀介が福島県白峠村を訪れる場面から始まります。村では近年、児童の神隠し事件が頻発しており、道尾は事件の調査中に異様な声を聞きます。それは、神隠しに遭った少年が切断された頭部のみで発見された場所でした。恐怖を感じた道尾は、霊現象を探求する友人・真備庄介に相談を持ちかけます。

一方、真備は白峠村とその隣町で相次いで発生した自殺事件について、被害者たちの友人や上司から相談を受けていました。彼らは皆、自殺直前に撮影された写真に奇妙な眼が写り込んでおり、自殺の原因はそれではないかと疑っていました。なぜ眼だけが写るのか、道尾が耳にした「ゴビラサ」という言葉は何を意味するのか。物語は、これらの謎を軸に展開していきます。

登場人物

真備 庄介（まきび しょうすけ）: 心霊現象を探求する「真備霊現象探求所」の主宰。冷静沈着で、怪奇現象の解明に情熱を燃やす。端正な容姿で女性ファンも多い。
道尾 秀介（みちお しゅうすけ）: 売れないホラー作家。真備の大学時代の友人で、事件の相談を持ち込む。作者と同姓同名、同年代という設定。
北見 凜（きたみ りん）: 真備の助手。霊能力を持ち、人の心を読むことができる。真備の亡き妻の妹。
歌川 春芳（うたがわ はるよし）: 白峠村で民宿を営む男性。宿泊客に合わせた浮世絵を飾るサービスを提供している。
呂坂 幹男（ろさか みきお）: 愛染町の住人。無職で自堕落な生活を送っており、認知症の母を罵倒したことを後悔し、自殺する。
糠沢 耕一（ぬかざわ こういち）: 神隠し事件の最初の被害者。天狗祭りの夜に失踪し、頭部のみが発見される。
糠沢 長次（ぬかさわ ちょうじ）: 耕一の祖父。林業を営む傍ら、天狗の面を作る面打ち師だった。
溝之木 亮平（みぞのぎ りょうへい）: 小学生。呂坂幹男の遺体の第一発見者。霊を見る力があり、遺体に写った『眼』を目撃する。
* 溝之木 まさ江（みぞのぎ まさえ）: 亮平の母親。夫の遺した家賃収入で生活を送る。息子を過保護に育てている。

小説に秘められたテーマ

『背の眼』は、単なるホラー小説としてだけでなく、人間の心の闇やトラウマ、そして過去の出来事が現在に及ぼす影響を描いています。神隠し事件と自殺事件、そして背中に写る奇妙な眼。これらの要素が複雑に絡み合い、読者を深淵なる恐怖へと誘います。真備と道尾が事件の真相を追う中で、人間の心の奥底に潜む狂気や悲しみが明らかになっていきます。

映像化

原作小説を基にしたテレビドラマは、BS日テレで2012年に放送されました。渡部篤郎氏が真備庄介を、平山浩行氏が道尾秀介を演じ、原作の持つ独特な世界観を映像で見事に表現しています。ドラマでは、原作のストーリーに加えて、映像ならではの演出や表現が加わり、より一層恐怖感を煽る作品となっています。

『背の眼』は、読者を恐怖のどん底に突き落とすだけでなく、人間の心の脆さや過去との向き合い方を考えさせる、奥深い作品です。ホラーファンはもちろん、ミステリーやサスペンス好きにもおすすめの一冊です。

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