胎児の人権

胎児の人権とは

胎児の人権とは、胎児が持つとされる法的、倫理的な権利のことです。この概念は、生命倫理や法哲学において重要な議論の対象となっています。胎児の人権は、人工妊娠中絶の是非、出生前診断、遺伝子操作など、さまざまな問題と深く関わっています。

日本の法における胎児の権利

日本の民法では、権利能力（権利・義務の主体となる資格）は、原則として出生によってすべての人に与えられます（民法3条1項）。しかし、胎児はまだ出生していないため、原則として権利能力を持ちません。

相続における権利

例外として、民法886条は、相続においては胎児をすでに生まれたものとみなす規定を設けています。例えば、父親が交通事故で亡くなった場合、胎児が出生前に死亡すると、母親が3分の2、父親の両親が3分の1を相続しますが、胎児が出生後に死亡すると、母親と子がそれぞれ2分の1を相続することになります。このような不合理を避けるため、胎児に相続の権利を認めています。

損害賠償請求権

民法721条では、胎児は損害賠償請求権についても権利能力を持つとされています。また、民法965条は、胎児への遺贈を認めています。

刑法における胎児

刑法においては、胎児がいつから「人」として扱われるかについて議論があります。判例・学説では、一部露出説が有力です。これは、胎児が母体の一部でも露出した時点で「人」とみなす考え方です。胎児が一部でも露出していれば、胎児だけを対象とした攻撃が可能になるため、保護の必要性が生じると考えられます。したがって、妊婦を殺害した結果、胎内の胎児が死亡した場合、胎児に対する殺人罪（刑法199条）の適用は難しいとされています。

アメリカ合衆国における胎児の人権

アメリカ合衆国では、胎児の人権を認める法律が存在し、妊婦が薬物やアルコールを使用し、胎児に有害な影響を与えた場合、妊婦の拘束、入院、親権剥奪などの措置が取られることがあります。親の喫煙も問題視されることがあります。

胎児の人権に関する議論

胎児の人権を認めるかどうかは、倫理的、宗教的、法的な観点から様々な意見があります。プロライフの立場からは、受精の瞬間から生命が始まると考え、胎児の生存権を重視する主張がなされます。一方、女性の自己決定権を重視する立場からは、妊娠の継続や中絶の決定は女性自身が行うべきであるという意見があります。

胎児の人権に関する議論は、社会全体で慎重に検討されるべき重要なテーマです。

参考文献

内田貴『民法I - 総則・物権総論』東京大学出版会、1994年、第2版2000年
伊藤真『伊藤真の刑法入門』日本評論社、初版2002年
鎌野邦樹『現代民法学』成文堂、初版2000年
『小さな鼓動のメッセージ』辻岡健象 小さないのちを守る会　いのちのことば社
『フェミニズム歴史事典』ジャネット・K. ボールズ、ダイアン・ロング ホーヴェラー共著、明石書店

関連項目

人工妊娠中絶法
反出生主義
人の始期

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