脱出 (1972年の日本の映画)

幻の映画『脱出』：西村京太郎原作、和田嘉訓監督作品の知られざる物語

1972年、西村京太郎の小説を原作とする映画『脱出』が製作されました。監督は和田嘉訓。脚本は和田監督と岡田文亮の共同執筆。近代放映が製作を担当しました。しかし、配給予定だった東宝が公開を見送り、長らく幻の作品として眠ることになります。

公開見送りの背景

映画化権争奪戦の末に製作が決定した本作ですが、公開直前に事態は急変します。東宝は、映画の内容が当時世間を騒がせていたあさま山荘事件と酷似している点を問題視し、公開の中止を決定しました。その通達は、主人公が日本を脱出する重要なシーンの撮影日、横浜港の現場でスタッフに伝えられたといいます。

完成自体は許可され、試写も行われました。試写を観た田山力哉は、その出来栄えを高く評価し、公開されなかったことを残念がったそうです。スピードポスターやスタジオメールは作成されたものの、本ポスターが作られることはありませんでした。

幻の上映とフィルムの消失

しかし、1974年8月31日から2週間、北海道の札幌日活館で『青春の蹉跌』『妹』との3本立てで、本作はひっそりと上映されました。その後、2016年10月には渋谷シネマヴェーラで開催された映画特集「荒木一郎の世界」にて特別上映され、出演者の荒木一郎とフラワー・メグによるトークショーも開催されました。

しかし、この上映の後、東宝は本作のフィルムを廃棄してしまったとされています。東京国立近代美術館フィルムセンターにも上映用プリントは所蔵されておらず、現在では鑑賞が非常に困難な作品となっています。

キャスト

岡田サチオ - ピート・マック・ジュニア
山田アキコ - フラワー・メグ
白川つとむ - 荒木一郎
鈴村進一 - 林ゆたか
ダミイ - 石橋蓮司
高梨降一 - 原田大二郎
井上警部補 - 青木義朗

スタッフ

監督 - 和田嘉訓
原作 - 西村京太郎
脚本 - 和田嘉訓、岡田文亮
* 音楽 - 高島あきひこ

作品の意義

『脱出』は、公開されることなくお蔵入りとなった作品ですが、その存在は日本の映画史において重要な意味を持ちます。社会情勢を反映した内容が公開を阻まれたという経緯は、当時の映画製作における制約や自主規制の存在を示唆しています。また、一度は忘れ去られながらも、上映会や特集上映などを通して再び日の目を見たことは、映画作品の生命力や、それを求める人々の情熱を物語っています。

幻の映画『脱出』は、その波乱に満ちた運命とともに、日本の映画史にその名を刻んでいます。

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