脾 (五臓)

脾（ひ）について

脾は、伝統中国医学（中医学）において、五臓（肝・心・脾・肺・腎）の一つとして重要な役割を担っています。主に腹部の中央に位置し、飲食物から「水穀（すいこく）の気」と呼ばれるエネルギーを吸収し、全身に供給する働きをすると考えられています。

脾と膵臓・脾臓の関係

江戸時代中期、杉田玄白や前野良沢らが『ターヘル・アナトミア』を翻訳し『解体新書』を著す際、腑分け（解剖）に立ち会った際のエピソードが残されています。その時、脾臓があまりにも大きく立派であったため、「『にくづきに卑しい』という字を当てるのは失礼ではないか」という議論が起こりました。そして、「あつまる」という意味を持つ字を旁（つくり）に用いて「膵臓」という名称を用いることになったと伝えられています。

しかし、中医学における「脾」を、西洋医学的な「膵臓」のみと解釈してしまうと、機能や概念に矛盾が生じることがあります。そのため、現代では、中医学の「脾」は、膵臓と脾臓の機能を合わせたもの、あるいはそれ以上の広がりを持つ概念として理解されることが一般的です。

脾の形状

古典的な文献や『和漢三才図会』のイラストなどから、脾の形状に関する記述を見ることができます。それらによると、脾は高さ約5寸（約15cm）、下部の最も太い部分の直径が約3寸（約9cm）の、下が膨らんだ円筒形をしているとされています。また、重さは約2斤4両（約1kg）を超えるとされています。

脾という漢字の旁（つくり）は、「卑しい」という意味ではなく、扁平な樽を意味しています。

脾の機能（中医学的視点）

中医学における脾は、単なる消化器官としてだけでなく、以下のような多岐にわたる機能を担うと考えられています。

消化吸収: 飲食物から栄養を吸収し、エネルギー（気）を作り出す。
運化: 吸収した栄養を全身に運搬する。
昇清: 体内の清らかな気（エネルギー）を上昇させる。
統血: 血液が血管外に漏れ出すのを防ぐ。
肌肉の主: 筋肉を養い、丈夫にする。
口唇にその華を現す: 脾の状態は口唇の色や状態に現れると考えられている。

脾の機能が低下すると、食欲不振、消化不良、疲労感、むくみ、下痢などの症状が現れることがあります。また、中医学では、精神的なストレスや過労も脾の機能に影響を与えると考えられています。日々の生活習慣を見直し、バランスの取れた食事や適度な運動、十分な休息を心がけることが、脾の健康を保つ上で重要です。

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