腎性糖尿

腎性糖尿（じんせいとうにょう）

腎性糖尿とは、血液中の糖分濃度（血糖値）が基準値内であるにもかかわらず、腎臓の働きによって尿の中に糖分（ブドウ糖）が排出されてしまう状態を指します。これは病気ではなく、多くの場合、健康上の問題を引き起こすことはありません。

通常の糖代謝と尿への排出

健康な人の体内では、食事などから取り込まれたブドウ糖は血液によって全身に運ばれ、エネルギー源として利用されます。血液中のブドウ糖は腎臓で濾過されますが、通常は尿細管という部分でほぼ全てが再び血液中に吸収（再吸収）されるため、尿として体の外に排出されることはありません。

しかし、血糖値が非常に高くなった場合、腎臓の尿細管が糖分を全て再吸収しきれなくなり、余った糖分が尿の中に漏れ出します。この、糖分が尿中に現れ始める血糖値の基準を「腎閾値（じんいきち）」と呼び、一般的には血糖値が約170mg/dlを超えたあたりとされています。糖尿病のように血糖値が高い状態では、この腎閾値を超えて尿中に糖分が排出されることが一般的です。

腎性糖尿の特徴

腎性糖尿の最も特徴的な点は、血糖値が空腹時で80～110mg/dl、食後なども含めて通常140mg/dl未満という正常範囲内に保たれているにもかかわらず、尿検査で糖が検出されることです。

これは、腎臓の尿細管における糖分の再吸収能力が、他の人と比べて低いという個人の体質や機能的な特徴によるものと考えられています。血糖値が正常であるため、腎性糖尿自体が健康に悪影響を及ぼしたり、将来的に糖尿病に移行したりするリスクを高めるものではありません。

健康への影響と治療の必要性

上述の通り、腎性糖尿は疾患ではないため、基本的に放置しても健康上の問題は発生しません。そのため、特別な治療を行う必要はありません。

診断と注意点

腎性糖尿は、健康診断や人間ドックなどで尿糖が陽性となり、その後の検査で血糖値が正常であることが確認されて初めて診断されるケースがほとんどです。

ここで注意が必要な点がいくつかあります。

1. 糖尿病との誤診: 尿糖が出ているという情報だけで判断すると、糖尿病と誤診される可能性があります。腎性糖尿である場合は、血糖値が正常であることを医師に正確に伝えることが重要です。
2. 糖尿病の見逃し: 過去に腎性糖尿と診断された人が、本当に糖尿病を発症した際に「自分は腎性糖尿だから尿糖が出ているのだろう」と思い込み、糖尿病の診断や治療が遅れてしまうリスクがあります。尿糖が出た場合は、過去の診断に関わらず、必ず血糖値を測定するなどして現在の状態を正確に確認する必要があります。

腎性糖尿と診断された経験のある人は、医療機関を受診する際や健診の際に、自身が腎性糖尿であることを医師に伝えるように心がけると良いでしょう。これにより、不必要な検査や治療を避けられたり、逆に重要な病気の見逃しを防いだりすることにつながります。

まとめ

腎性糖尿は、血糖値が正常にもかかわらず尿に糖が出る、治療不要な体質・機能的な特徴です。健康上の問題はありませんが、健診などで糖尿病との鑑別を正確に行うために、ご自身の状態を理解しておくことが大切です。

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