腐蝕の構造

『腐蝕の構造』は、森村誠一によって1972年に発表された社会派推理小説であり、人間の欲望と愛憎を描いた作品です。原子力科学の第一人者である雨村征男と、大企業・土器屋産業の御曹司である土器屋貞彦という対照的な二人の男を中心に、北アルプスでのある事件をきっかけに、彼らの運命が大きく狂っていく様を描いています。

あらすじ

物語は、雨村と土器屋が高校時代からの友人であることから始まります。しかし、北アルプスで道標の向きを変えたことがきっかけで、二人の人生は思わぬ方向へと進んでいきます。ウラン濃縮技術の成果を手に入れるため、手段を選ばない巨大商社の暗躍。政治家と財界人の癒着、そして利権をめぐる殺人事件が次々と発生します。

雨村は研究成果の公開を頑なに拒否しますが、最終的には死亡。癒着に関わった者たちも次々と命を落とします。残されたのは、雨村の妻である久美子だけでした。雨村が守り抜こうとした研究成果は、かつて雨村が所属していた物理化学研究事業社の物部満夫によって実現されます。

物語は、かつての幸せな新婚生活、雨村が久美子に託した研究成果、そして巨大商社の利権といったものが、腐敗し、腐臭を放つ様を描き出します。そんな中で、久美子にとって何よりも大切だったのは、真実の愛でした。

テレビドラマ

1977年には、「森村誠一シリーズ」の第1作として毎日放送によってテレビドラマ化され、TBS系列で全7話が放送されました。北アルプスの雄大な自然を背景に、城達也のナレーションが物語を盛り上げました。

ストーリー

核融合理論の権威である小宮山四郎博士が自動車事故で死亡したことから物語は始まります。小宮山の遺志は、弟子の雨村に託されます。雨村は、新和グループからも目を付けられ、莫大な利益を得るために利用されようとします。雨村は高校時代の友人である土器屋貞彦と北アルプスに登りますが、貞彦のいたずらによって代議士の息子を死なせてしまいます。その後、物研の研究員が殺害され、雨村の周りには黒い影が忍び寄ります。

雨村は、物研の事務員である久美子と結婚しますが、小宮山博士は日本の重工業に理論を売ろうとして殺害されたことを知ります。その背景には、政府が原子力事業の国産化を決定し、巨額の予算を計上したという事実がありました。雨村は、原子力学会での論文発表を断念します。発表すれば、簡単に原子爆弾が作れてしまうからです。そんな中、雨村は久美子に論文を預け、愛を誓います。しかし、その3日後、雨村の乗る旅客機が自衛隊機と衝突し、乗客乗員全員が死亡するという事故が起こります。

事故後、久美子は雨村の遺体を探しますが、見つかりません。すると、自宅が荒らされ、雨村から送られてきたはずのハガキが消えていることに気づきます。雨村の助手である三ツ森も拉致され、脅迫を受けます。久美子の周りには、雨村の死後も黒い影がつきまといます。雨村の友人だった貞彦は、土器屋産業の社長となり、原子力産業の重要人物として暗躍します。

貞彦が殺害されたことで、新和グループは雨村の研究ノートを執拗に狙い始めます。久美子は真相を探るため、雨村が宿泊していた新潟のホテルに向かい、雨村がある女性と黒部に向かったことを知ります。久美子は黒部で何者かに突き落とされますが、登山客に助けられます。謎の男、大町が現れ、久美子を助けます。久美子は銀行の貸し金庫にノートを預け、大町は冬子の張り込みを始めます。やがて、貞彦殺しの犯人として松尾が浮上し、冬子が亡くなったはずの雨村と会っているのではないかという疑惑が生まれます。

冬子の密会相手は、松尾でした。松尾は、中橋の愛人である三杉さゆりと関係を持っていました。松尾とさゆり、そして中橋は山に向かい、中橋は松尾を殺そうとしますが、逮捕されます。本田は物部に松尾を殺すように命じますが、松尾は物部を盾にして射殺します。同じ頃、中橋がガス中毒で死亡し、さゆりは重症を負います。冬子は黒部に向かい、久美子と大町はその後を追います。久美子の心は、いつしか自分のために尽くしてくれる大町に傾いていました。

事件の真相が明らかになります。冬子と一緒にいた男は松尾でした。松尾は、一連の殺人事件の真相を警察に勘付かれたことから本田に見捨てられ、冬子と心中を決意していました。松尾は大町を撃ち、転落死します。大町は重傷を負いながらも、冬子から雨村の行方を聞き出します。実は、雨村は飛行機事故には遭っていませんでした。雨村と冬子は愛し合っていましたが、雨村はその関係を清算し、恐ろしい原子力理論をこの世から抹消するために、死を望んでいたのです。大町は幻覚を見て崖から飛び降り自殺し、冬子は視力をほとんど失います。久美子の元に、白木刑事が詫びに来ますが、今の日本は権力によって腐りきっていると告げるだけでした。その後、新和グループが原子力開発に乗り出し、雨村の遺体が黒部湖から引き上げられたことが伝えられます。

『腐蝕の構造』は、人間の欲望と愛憎、そして社会の腐敗を描いた重厚な作品であり、現代社会にも通じるテーマを扱っています。

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