腸陰窩

腸陰窩（ちょういんか）

概要

腸陰窩（ちょういんか、英: Intestinal crypt）は、小腸および大腸の粘膜上皮層に存在する管状の腺構造体です。この名称以外にも、発見者であるドイツの解剖学者ヨハン・ナサニエル・リーベルキューン（Johann Nathanael Lieberkühn）にちなんでリーベルキューン腺小窩（Crypt of Lieberkuhn gland）、あるいは単に腸腺（Intestinal gland）とも称されます。

機能

腸陰窩は、その位置と構造から、消化管の機能維持に不可欠な二つの主要な役割を担っています。

1. 消化酵素の分泌

腸陰窩を構成する細胞からは、様々な種類の消化酵素が分泌されます。これには、タンパク質を分解するエンドペプチターゼやエクソペプチターゼといったペプチド分解酵素に加え、糖質を分解するスクラーゼやマルターゼなどが含まれます。これらの酵素は、食物の最終的な消化を助け、栄養素の吸収を促進する上で重要な働きをします。

2. 上皮細胞の再生

消化管の内壁は、食物の通過や消化液との接触により、常に物理的・化学的なストレスにさらされています。特に、食物が腸内を移動する際に生じる摩擦によって、表層の上皮細胞は絶えず磨耗し、失われていきます。腸陰窩は、このような細胞の喪失を補うための重要な細胞供給源として機能します。腸陰窩の底部には、腸管上皮幹細胞が存在しており、これらの幹細胞が分裂・分化することで、新しい上皮細胞が継続的に生み出されます。生み出された新しい細胞は、腸陰窩から管の開口部に向かって移動し、最終的に磨耗・剥離した細胞と置き換わります。この絶え間ない細胞の入れ替わり（ターンオーバー）によって、腸管上皮は常に健康な状態に保たれ、バリア機能や吸収機能が維持されています。

臨床的意義

腸陰窩における上皮細胞の再生機能は、消化管の健康を維持する上で極めて重要です。しかし、この細胞増殖および分化の調節機構に異常が生じ、細胞の補修・再生が適切に行われなくなると、様々な疾患が発生するリスクが高まります。特に、細胞の異常な増殖が制御不能になった場合、大腸がんをはじめとする悪性腫瘍の原因となる可能性が指摘されています。したがって、腸陰窩の機能、特に細胞再生のメカニズムを理解することは、消化器疾患の病態解明や治療法開発において重要な意味を持っています。

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