臨時教育審議会

臨時教育審議会（臨教審）とは

臨時教育審議会（りんじきょういくしんぎかい）は、1984年に設置された内閣総理大臣の諮問機関です。中曽根康弘首相の主導のもと、教育問題に関する広範な調査と審議を行い、その答申は日本の教育改革に大きな影響を与えました。通称「臨教審」と呼ばれています。

設立の背景

1980年代初頭の日本は、受験競争の激化、いじめ問題の深刻化、国際化の進展など、教育を取り巻く環境が大きく変化していました。中曽根首相は、これらの課題に対応するため、長期的な視点から教育改革を推進する必要性を認識し、臨教審の設置を主導しました。

構成と活動

臨教審は、会長の岡本道雄をはじめ、学識経験者や経済界の代表など、各界の有識者によって構成されました。審議は4つの部会に分かれて行われ、それぞれ「二十一世紀を展望した教育の在り方」「社会の教育諸機能の活性化」「初等中等教育の改革」「高等教育の改革」をテーマに議論が重ねられました。

臨教審は、1985年から1987年にかけて4次にわたる答申を発表しました。これらの答申に基づき、大学入学資格の弾力化、学習指導要領の大綱化、秋季入学制度の検討、文部省の機構改革など、教育全体にわたる様々な施策が実施されました。

答申内容

第1次答申（1985年）：我が国の伝統文化、日本人としての自覚、六年制中等学校、単位制高等学校、共通テスト
第2次答申（1986年）：初任者研修制度の創設、現職研修の体系化、適格性を欠く教師の排除
第3次答申（1987年）：教科書検定制度の強化、大学教員の任期制
第4次答申（1987年）：個性尊重、生涯学習、変化への対応

内部対立と「教育の個性化」

臨教審の内部では、「教育の自由化」を主張する第一部会と、それに反発する第三部会の対立が見られました。「教育の自由化」論は、学習塾の私立学校としての認可などを主張しましたが、文部省や自民党の文教族の反対に遭い、答申には直接反映されませんでした。しかし、折衷案として「個性の重視・育成」がスローガンに掲げられ、「教育の個性化」が提案されました。

評価

臨教審は、「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「国際化、情報化など変化への対応」などの理念を掲げ、教育改革の方向性を示しました。その答申は、「ゆとり[[教育]]」の基礎を築いたと評価される一方で、「教育の自由化」の主張は、その後の新自由主義的・市場主義的な教育改革の端緒になったとの批判もあります。

また、臨教審では「指導が不適切である」教員の問題が初めて公の場で提起されました。具体的な対策は答申に盛り込まれませんでしたが、その後、文部科学省によって「指導力不足教員に関する人事管理」に関する調査研究事業が進められ、全国的に教員の指導力向上への取り組みが始まりました。

中曽根康弘元首相は、臨教審について、「ゆとりを持った教育にしないと、心豊かな人間を育めない」という考えから設置したと述べています。しかし、学習内容の削減や小学校での「生活科」導入など、臨教審の答申に基づく教育改革は、その後の学力低下や教育現場の混乱を招いたとの批判もあります。

臨教審は、それまでの「文部省対日教組」という二項対立的な教育政策の構図を大きく変え、官邸主導・政治主導の教育政策立案という新しい流れを作りました。また、日教組の弱体化を招いたとも言われています。

結論

臨時教育審議会は、日本の教育史において重要な転換点となりました。その答申は、大学入試制度、学習指導要領、教員研修制度など、多岐にわたる教育改革に影響を与え、日本の教育のあり方を大きく変えました。しかし、その評価は賛否両論あり、今後の教育政策のあり方を考える上で、重要な教訓を与えてくれます。

もう一度検索