自国市場効果

自国市場効果について

自国市場効果（じこくしじょうこうか、英: The home market effect）とは、国内市場の規模が大きい場合に、その国の産業が需要を超えて集積する現象を指します。この概念は、マックス・コーデンによって初めて提起され、その後、ポール・クルーグマンの1980年の論文で体系化されました。

概要と理論的背景

自国市場効果は、経済の規模と輸送コストが影響を与える新貿易理論のフレームワークから導き出されます。特に、輸送コストがある場合に、企業はより大きな需要へのアクセスが見込める大規模な市場に進出する動機付けを持つため、この現象が生じます。言い換えれば、市場規模が拡大することで、国内産業が需要を上回る生産を行い、結果として純輸出が増加することになります。この市場規模と純輸出との関係性は、リカードモデルなどの比較優位に基づく従来の貿易理論では説明が難しい側面です。

例えば、アメリカの航空産業は自国市場効果の顕著な例として知られています。広大な国土により航空輸送が求められる中、ボーイングなどの企業は国内の需要を超える量の航空機を生産し、輸出を行っています。

発展の経緯

ポール・クルーグマンは、自国市場効果をリンダー仮説の代替理論として考察しました。彼の研究によれば、国の需要構造がその輸出パターンの予測に役立つとの仮説が実証されています。1980年の論文では、特定の産業への需要が高い国では、その産業がその国の需要水準を超えることが予測されています。また、クルーグマンはエルハナン・ヘルプマンとの共著で、経済規模が大きい国では、依然として市場需要を上回る産業集積が起こることを示すモデルを発表しました。この研究は新貿易理論の範疇に位置づけられています。

自国市場効果の逆転現象

一方で、自国市場効果とは逆の現象も見受けられます。生産技術が収穫一定であり、代替の弾力性が大きい場合、自国市場効果が消失することが示されています。特に、同質財と差別化財が同じ輸送コストの下で競合する際には、この逆転現象が顕在化します。多様な品目を生産せず、異なる国が特有の多様性を生み出すモデルにおいても、自国市場効果の逆転が確認されています。

また、都市経済学や地域経済学の観点から自国市場効果が論じられる際には、非貿易財を考慮することでこの効果が相殺される可能性が挙げられています。つまり、消費者の効用関数が同質財と「差別化バラエティの合成財」に基づく場合、代替の弾力性によって自国市場効果の逆転が見られるという研究も存在します。

実証データ

実際の研究でも、自国市場効果の存在が示されています。アメリカとカナダにおけるパネルデータから、特にOECD諸国間では自国市場効果が観察されています。さらに、2002年時点のアメリカにおける6つの産業の特許ストックデータを分析した結果、技術集約度が高い産業ではこの効果を相殺する作用が働くことが確認されました。

このように、自国市場効果は国の経済構造や輸出競争力に大きな影響を与える重要な要因であり、今後も研究が進むテーマであると言えます。

もう一度検索