新貿易理論

新貿易理論 (The New Trade Theory)

新貿易理論は、企業の規模の経済に重点を置き、独占的競争市場における国際貿易を説明するための理論モデルです。この理論は、ポール・クルーグマンやエルハナン・ヘルプマンらの研究を基に1970年代から80年代にかけて台頭し、1990年代にかけては広く研究されました。英語では「NTT」と略されることもあります。

概要

従来の貿易理論、たとえばリカード・モデルやヘクシャー＝オリーン・モデルでは、各国が自国における比較優位を持つ産業の製品を輸出し、比較劣位の産業を他国から輸入すると考えられています。しかし、この伝統的な理論では、同一の産業内での財の輸出入、つまり産業内貿易を説明するのが難しいのが実情です。新貿易理論は、このような産業内貿易を説明可能な理論を提供します。新貿易理論においては、国々が似たような発展レベルや産業構造を持っていても貿易が発生することを理論的に示すことができます。

この理論の基本モデルでは、企業が生産する際に固定費が必要であり、企業は生産を拡大することで平均コストを引き下げるインセンティブを持っています。このため、企業は輸出機会があれば進んで輸出します。また、消費者は多くの製品の選択肢があることで満足度が向上するため、貿易によって商品の多様性が増すことが経済全体にとって利益になります。

萌芽

アビナッシュ・ディキシットによる貿易モデルへの規模の経済の統合は、国際貿易の理解において成功を収めたものと言えるでしょう。しかし、クルーグマンとヘルプマンは、独占的競争市場の理論であるディキシット＝スティグリッツ・モデルを国際貿易に応用することにより、規模の経済が貿易の根源であることを明示しました。この背景には、クルーグマンがロバート・ソローから影響を受けたことがありますが、彼は規模に関する収穫逓増が貿易に及ぼす影響が十分に考慮されていなかったと指摘しています。

自国市場効果

新貿易理論の重要な点は、貿易コストの存在です。貿易コストがある状態では、異なる国の経済規模に差が生じる場合、大きな市場に低コストでアクセスできる企業は、より大きな国に拠点を置くインセンティブを持つことになります。この結果として、企業は大国に集まり、その国の需要を超える形で立地することで、特定の産業の純輸出国となる現象が発生します。

応用

新貿易理論においては、企業が市場に自由に出入りできることが基本的な前提となっています。企業は立地の選択肢を持ち、国家間で利益が均等になるよう調整が行われます。例えば、自国が外国市場の関税を一定に保ちつつ、自国の外国製品に課す関税を引き上げると、自国に企業が集中することになります。この関税の影響がGATTやWTOの交渉にどう反映されるか、また異なる環境規制が企業の立地選択に与える影響も重要な研究課題です。

検証

産業内での貿易量を測定するための指標、グルーベル＝ロイド指数を用いることにより、実際に多くの産業内貿易が行われていることが確認されています。これは、新貿易理論で示唆される貿易メカニズムが実際の経済活動においても影響を与えていることを示しています。

問題点と克服

新貿易理論では、企業が同質であるという仮定があり、すべての企業が同じ行動をとることになっています。このため、理論的には開放経済下で全ての国が輸出を行うことになりますが、実際には輸出を行うのはごく一部の企業に過ぎないという現実との間には矛盾があります。これを解決するために、マーク・メリッツが提案した異質な企業の貿易モデルは、現実の状況をより的確に説明するための理論的基盤を提供し、2000年代以降の新々貿易理論の発展に寄与しています。

参考文献

• - ディキシット＝スティグリッツ・モデル
• - 国際貿易における独占的競争

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