自己敗北性パーソナリティ障害

自己敗北性パーソナリティ障害

自己敗北性パーソナリティ障害（じこはいぼくせいパーソナリティしょうがい）は、かつて「マゾキスティックパーソナリティ障害」とも呼ばれていた人格障害の一種です。1987年に『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版 (DSM-III-R) の付録に収載されましたが、その後のDSMには正式に採用されませんでした。現在では、「特定不能のパーソナリティ障害」として診断される場合があります。

しかし、自己敗北性パーソナリティ障害の概念は、一部の研究者や臨床家の間で、依然として重要な意味を持っています。公式なコード番号「301.90」も割り当てられています。

診断基準

DSM-III-Rに掲載されていた自己敗北性パーソナリティ障害の診断基準は以下の通りです。

良いことが起こる機会を避けたり、台無しにしたりする。
他者から援助や支援を受けても、それを拒否したり、無効にしたりする。
成功しても、罪悪感や無価値感を抱く。
楽しい状況を避けたり、苦痛な状況に進んで身を置いたりする。
他者からの批判や非難を招くような行動を繰り返す。

DSM-IVからの除外

自己敗北性パーソナリティ障害がDSM-IVから除外された背景には、いくつかの理由があります。

歴史的に、マゾヒズムが女性的な服従と関連付けられてきたこと。
家庭内暴力との関連性が指摘され、政治的な議論を呼んだこと。

しかし、多くの研究により、この障害が決して珍しいものではないことが示されています。DSM-IVから除外された後も、人間の行動を理解する上で重要な概念として、治療者の間で広く用いられています。

なお、『社会的、職業的、その他重要な領域の職務に関する、臨床的に有意な苦悩や障害を原因とした』性的マゾヒズムについては、現在もDSM-IVに記載されています。

ミロンのサブタイプ

心理学者のテオドール・ミロンは、マゾヒストの4つのサブタイプを提唱しました。

1. 自己犠牲型: 常に他者のために尽くし、自分の欲求を犠牲にする。
2. 依存型: 他者に依存し、見捨てられることを恐れる。
3. 自己破壊型: 自暴自棄な行動を繰り返し、自分自身を傷つける。
4. 被害者型: 常に不当な扱いを受けていると感じ、周囲に不満を抱く。

これらのサブタイプは、単独で現れることもあれば、組み合わさって現れることもあります。

自己敗北性パーソナリティ障害は、その定義や診断基準において議論の余地があるものの、人間の苦悩や行動を理解する上で重要な概念です。自己犠牲的な行動や、無意識のうちに不幸な状況を選んでしまう傾向の背景には、自己敗北的な心理が隠されている場合があります。もし、ご自身や身近な人にそのような傾向が見られる場合は、専門家の助けを求めることを検討してみてください。

参考文献

高橋三郎（訳）『DSM-III-R 精神障害の診断・統計マニュアル』医学書院、1988年（原著1987年）。ISBN 9784260117388。

関連項目

パーソナリティ障害
サディスティックパーソナリティ障害
マゾヒズム

外部リンク

Self-defeating Personality Disorder (aka Masochistic Personality Disorder)
* The Riddle of Masochism

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